2015年8月15日
金融CSR

あなたのお金が人殺しのために使われていたら?

 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。

 先日「大手銀行の通信簿、見てみたくないですか?」という記事でご紹介したFFGJ(Fair Finance Guide Japan)による日本のメガバンク5行の社会性の評価ですが、なんでこのような評価が必要なのでしょうか? あるいは、これにはどのような意味があるのでしょうか?

あなたのお金が人殺しに使われている!?

 あなたが銀行に預けたお金、最近はほとんど利息もつきませんが(^^;)、実際には銀行はこのお金をどこかに融資したり、融資し、そこで得た運用益で様々なコストを負担したり、預金者に利息を払っています。

 投融資先は多岐に渡るのですが、例えばその中に兵器製造に関わっている会社があったらどうでしょうか? もしあなたが預けたお金を使って兵器が作られ、人が殺されたり傷つているとしたら… そんなことは誰しも望んではいないでしょうが、今までのやり方ではこういうことが起きていたとしても預金者にはまったくわかりません

 実際、今回の調査結果を見てもわかるように、日本のメガバンクのほとんどが、クラスター爆弾や対人地雷などの兵器製造に携わる起業への投資を禁止する独自のルールを持っていません。

熱帯林を破壊しているのはあなたのお金?

 あるいは環境への影響はどうでしょうか? 最近、日本でも少しずつ話題になるようになった「パーム油」。非常に便利で有用であることは確かですが、一方で急造する需要を満たすために、貴重な熱帯雨林を破壊してプランテーションが作られたり、危険な農薬が使われたりと、環境に対する負荷の大きさが問題視されています。

 その結果、一部の先進的な農園は新規開発は行わず、また生産時の環境管理にも力を入れていますし、そうした農園からだけパーム油を調達する企業も増えています。

 しかし、問題がある農園にも融資をしたり、投資をしたりする金融機関があるので、熱帯雨林を破壊し、新たなプランテーションが作られているのが現実です。そしていくつかの海外のNGOの調査によれば、こうした農園の開発に日本の銀行のお金も使われているといいます。

 これも環境や地域社会への影響を気にする人からすれば、非常に不本意なことだと思います。ところが、現状では日本の銀行ではパーム油のプランテーションへの投融資について特別の方針を持っているところはありません。(いくつかのメガバンクが赤道原則への署名を通じて、環境アセスメントの実施や貴重な生態系への悪影響を回避することを求めていますが、赤道原則でカバーできるプロジェクトは限定的です。)

 これ以外にも様々な問題が有り得ますが、FFGJでは日本の金融機関が人権侵害に関与している事例をレポートにまとめて発行していますので、そうしたものも参照してみるといいかもしれません。
 『Fair Finance Guide 第 1 回ケース調査報告書 日本の金融機関は人権侵害にどう関与しているか? 〜海外における 4 つの開発プロジェクトを例に〜』(PDF)

お金の預け先を移せば…

 こういう現実を知ってしまうと、どこに自分のお金を預けるのか、慎重にならざるを得ませんね。中には、もっと安心できる金融機関にお金を預け直したいという人も出てくるかもしれません。実は、FFGは預金者が自分がお金を預ける銀行を見直すことで、お金の流れが変わり、社会が変わることを期待しているそうです。

 とは言っても、今回の評価対象はまだメガバンクの5行だけ、パフォーマンス的にもドングリの背比べ状態であり、移す先が見当たらないという場合もあるでしょう。また、様々な理由で口座を移動するのは簡単ではないという場合もあると思います。そのようなときには、自分の口座がある銀行にメッセージを送ることをFFGJは勧めています。

 口座を移したり、直接銀行に期待を述べることで、銀行の投融資基準が整備されたり変わることを促せば、お金の流れが変わり、自分のお金が不本意な使われ方をするだけでなく、最終的にはそのような事業などにお金が流れなくなるようにする動きを加速できるということです。

 自分のお金が人や環境を傷つけることに使われるかもしれないという気持ち悪さを解消できるだけでなく、そういうことがない社会が早くできるように、わずかながら、間接的にでも、あなたが協力できるようになるのです。

銀行にとっての意味は?

ということで、銀行の社会性の評価は、一義的には預金者の意志が反映させられるようになるということに意味があるわけですが、実はそれ以外にも大きな意味がいくつもあります。

 前に書いたように、これはそもそも金融機関の社会的責任を問うているわけです。社会や環境にネガティブな影響が大きいものに投融資していいのか? ポジティブな影響がある事業にもっと積極的に投融資すべきではないのか? ということです。ですから当然、こうした評価によって、金融機関の事業のあり方が変わらざるを得なくなることが考えられます。評価対象になっている銀行はもちろん、今はまだ自分たちが評価されたり、その結果が公開されない金融機関であっても、こういう流れが始まっているのだということは、今後の経営を考える上で大きな圧力になりうるでしょう。

 そしてこれは、単に倫理的な問題ではないことに注意が必要です。つまり、社会性や環境性に問題がある事業は、事業自身の継続性についても問題があるからです。どこかで問題が発覚したり、大きくなったりして、事業が計画どおりに進まなかったり、最悪の場合、止まってしまうこともあり得ます。そのような事業に投融資を行うことは… 当然、金融機関として大きなリスクになります。

 逆に言えば、こうした評価を参考にしながら投融資基準を見直すことは、本業である投融資の業務におけるリスク管理にも役立つのです。もちろん、「責任ある」銀行として、預金者からの評価が高くなる効果も期待できます。自分たちの貸し出し業務や投資方針に自信を持っている銀行であれば、そのことをどんどんアピールすればいいと思いますし、こうした評価があればそれが第三者によって裏づけられるのですから、願ってもないことのはずです。

 つまり、責任ある事業を行っている金融機関からすれば、このような評価が広まる動きは、歓迎すべきことのはずです。

企業にとっての意味は?

 こうした動きが影響を与えるのは、金融機関だけなのでしょうか? いいえ、そんなことはありません。金融機関が社会や環境への影響を配慮した厳密な投融資方針や基準を持ち、それを適用するようになれば、それに反するような事業を行うことは財務的にとても困難になるでしょう。

 たとえそれが操業場所の法令上は問題がないとしても、金融機関の投融資基準の方が厳しければ、あるいは預金者がそれよりも高いレベルでの配慮を求めれば、その事業を行うことは難しくなるということです。

 ですから、この動きを「銀行も厳密な評価をされるようになって大変だな」と傍観するのは間違いです。責任ある預金者の目は、銀行はもちろんですが、その先にある事業の内容や配慮を見ているということに気がつく必要があります。

 そしてもちろん、きちんとした社会配慮や環境配慮のもとに事業を行っているのであれば、そのことを金融機関に強くアピールするべきでしょう。金融機関もそれを高く評価する素地が出来てきたのですから。

この動きが意味すること

 Fair Finance Guide Internationalは、こうした動きをさらに多くの国々に広げていくために、既にいくつもの国でNGOに呼びかけを始めているそうです。つまり、この動きはこれからますます世界中に広まっていくし、その影響は金融機関にはとどまらないということです。

 そしてこれは、責任ある事業を行っている、あるいは行おうとしている金融機関や企業にとっては、追い風にこそなれ、足かせになることはありません。

 今はまだ高い評価が取れなかったとしても、対応ができていなかったとしても、そこは問題ではありません。こうした動きとその意味をしっかりと理解し、それに適切に対応できる企業が真の持続可能な企業、つまり21世紀を生き残っていける企業なのです。
 
 
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