2015年6月3日
CSRファイル

食品ビジネスにいま求められる原則とは?

 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。

 サスナビ!では食品の価格が上がり続けること、そしてその背景にある真の原因について紹介してきました。

 この話題は非常に関心が高いようで、いつも人気記事になりますので、これからも継続的に、そして深く分析をしていきたいと思います。

 ところで、レスポンスアビリティで毎週発行している「サステナブルCSRレター」の中でも、食品の値上げとその背景については適宜取り上げています。

 以下に紹介するのは、少し前になりますが昨年の10月、FAOが定めた世界食料デーに関連して、コンサルタントの井上が書いたものです。どうぞご参考になさってください。

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《CSRファイル》#007

「食料問題をビジネスに活かすためには?」

              レスポンスアビリティ  井上孟

 先週の10月16日は国連食糧農業機関(FAO)により定められた
「世界食料デー」だったのをご存知でしょうか? そこで、今回は
食料問題の現状とビジネスに求められていることついてお話ししま
す。

 はじめに、なぜ食料問題が大きく注目されているのか、その背景
の一部をご紹介します。
・現在世界で20億人が栄養不足の状態にある
・今後人口の増加に伴い、食料に対する需要は増加する
・増加する食料需要をまかなうための土地や水、エネルギー等の資
源には限りがある
・食物の生育に必要な栄養塩の循環などを支えている生態系は劣化
しつつある

 これらのことから、今後は資源制約のある中で今よりもさらに多
くの食料を生産する必要があることが分かります。こうした将来へ
の詳しい示唆は、FAOの “Greening the Economy with
Agriculture”
によくまとめられています。同報告書は、これらの
課題に対応するためには、食料供給システムのすべてのプロセスに
おいて、あらゆる関係者を巻き込んだ大規模な変化が必要だとして
います。ビジネスには、農家から消費者まで巻き込んだ、バリュー
チェーン全体での取り組みが求められている
、といえるでしょう。

持続可能な食料供給システムとは?

 このような状況を受け、FAOと国連環境計画(UNEP)
は、“Sustainable Food Systems Progremme” を立ち上げまし
た。今年の1月から7月に行なわれた調査では、持続可能な食料供
給システムを築くために以下が重要な課題だとされています。
・食料安全保障・栄養状態
・気候変動
・食品ロス
・生物多様性と生息地の消失
・水の不足と利用効率

 「食品ロス」とは食べられるにもかかわらず廃棄される食料のこ
とです。FAOの報告によると、世界全体の食料の1/3(13億ト
ン)の食料が毎年破棄されており、世界では非常に問題視されてい
ます。今年に入ってから即席麺の賞味期限を延長する会社が相次ぎ
ましたが、それにはこうした背景があります。サプライチェーン全
体で食品ロスの削減に取り組めば、コストを削減する大きな機会と
もなります。

グローバルコンパクトのFAB原則

 一方、ビジネス側の動きとしては、国連グローバルコンパクト
(UNGC)の活動があります。UNGCは、持続可能な経済発展の
ためには食料問題への対処が不可欠だと判断し、取り組みをすでに
始めています。具体的には”持続可能な農業ビジネス原則
(SABPs)” の構築です(現在はFood and Agriculture Business
Principles:FAB原則
に改称しています)。

 こちらは以下の3つのステップから構成されます。
1. ビジネスが取るべき行動や目標、考慮すべきファクターについ
ての白書の作成
2. 白書へのフィードバックを踏まえ、原則のドラフトを作成
3. 原理をアップデートし、広める

 1の白書は昨年7月に発表されています。その中では、農業を持
続可能にするための16の要素があげられました。以下はその一部
です。
・生産性
・労働者の権利
・土地と水の利用
・廃棄物の管理
・サプライチェーンと貿易
・小規模農家

 これらから、食料供給システムに関わるビジネスは、サプライチ
ェーン全体での取り組みを進める必要があることが明らかです。こ
こでは割愛しますが、同白書は、これらの要素を環境やガバナンス
といった各責任領域ごとにまとめ、マテリアリティ・マトリクスも
作成しています。

 そして、今年の5月には、ステップ2の6つのFAB原則案が公表
されました。以下に意訳したものを記載します。
1. 食料安全保障、人の健康の促進、栄養状態の改善の最適な食料
供給システムを構築する
2. 資源制約の高まる中で需要の増加に応えるため、資源効率を高
め、環境責任を果たす
3. 農家から消費者まで、バリューチェーンの全体で価値を創造
し、共有する
4. 人権を尊重し、ディーセント・ワークを実現し、地域社会の繁
栄を促進する
5. 適切に企業統治を行い、説明責任を果たす
6. 情報や知識、技術やスキルへのアクセスを促進し、小規模農家
などのキャパシティ・ビルディングを行なう

あなたの会社も長期戦略を!

 食料・農業に関連する企業にとっては、この記事の一番はじめに
あげたような社会・環境課題に対応することが長期的成長を達成す
る上での必須事項といえます。その課題にいかに対応すべきかは議
論の分かれるところですが、このFAB原則には数多くの専門家の
知見が集約されていますので、これを参考に長期戦略を立てるのは
効果的な方法といえるでしょう。

 また、食料供給システムには、食品会社だけではなく、農業技
術、人材育成、流通、包装などの数多くの産業が関係します。食料
生産に直接関わらない会社でも、このシステムの中で自社の技術を
活かすことができれば、それは将来有望な事業になり得ます。この
ようにCSRで社会的課題を特定し、事業部とともに解決策を作る
ことができれば、それは会社の役に立つ「本物のCSR」の実践で
す。

 この記事を読んで、自社の強みと食料問題の解決を結びつけるア
イディアが生まれたら、ぜひ事業化の道を模索してみてください。

初出:2014年10月23日発行 サステナブルCSRレター No.200
 
 
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