2015年10月5日
持続可能性

飢餓や栄養改善がどうビジネスになるのか?

 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。前回に続いて「ビジネスチャンスとしてのSDGs」です。第2回目のの今日は、目標2について考えます。

 SDGs(持続可能な開発目標)の目標2は目標1の貧困と少し関連しますが、よりスペシフィックに食料問題についてです。

 そこで、まずは飢餓や栄養に関する世界の現状からです。UNICがまとめたファクトシートで見てみましょう。

まだこんなに。栄養不良の現状

  • 開発途上地域全体で、栄養不良の人々の割合は1990-1992年の3%から2014-2016年の12.9%と、1990年以来ほぼ半減しています。しかし、今日も依然として、世界人口の9人に1人(7億9,500万人)が依然として栄養不良に陥っています。
  • 世界で飢餓に苦しむ人々の大多数が暮らす開発途上国では、栄養不良の人々の割合が人口の9%に達しています。
  • 飢餓に陥っている人々が最も多いのはアジアで、全体の3分の2を占めています。南アジアの割合は近年、低下してきていますが、西アジアの割合は微増となっています。
  • 飢餓率(人口全体に占める割合)が最も高い地域はサハラ以南アフリカで、およそ4人に1人が栄養不良に陥っています。
  • 栄養不良が原因で死亡する5歳未満の子どもは年間310万人と、子どもの死者数のほぼ半数(45%)を占めています。
  • 世界の子どもの4人に1人は、発育不全の状態にあります。開発途上国に限ると、この割合は3人に1人に上昇します。
  • 開発途上国では、就学年齢の子ども6,600万人が空腹のまま学校に通っていますが、アフリカだけでも、その数は2,300万人に上ります。
  • 世界で最も就業者が多い産業である農業は、現在の世界人口の40%に生計手段を提供しています。また、農村部の貧困世帯にとっては、農業が最大の所得源かつ雇用源となっています。
  • ほとんどが天水農業を営む全世界5億軒の小規模農家は、開発途上地域の大部分で消費される食料の80%程度を提供しています。小規模農家への投資は、最貧層の食料安全保障と栄養状態を改善し、国内・世界市場向けの食料生産を増大させる重要な手段です。
  • 【出典:国際連合広報センター、持続可能な開発のための2030アジェンダ採択 — 持続可能な開発目標ファクトシート】

     第一項目の「栄養不良の人々の割合は1990-1992年の3%から2014-2016年の12.9%と、1990年以来ほぼ半減しています」という記述が、ちょっと計算があわないのですが… おそらく1990-1992年が30%ぐらいだったのだと思います。

     この20年でかなり改善しているものの、残念ながらまだかなり多くの人々が栄養不良であり、そのために死亡する子ども、発育が不十分である子どもがいることがわかります。

     さて、こうした状況をこれから2030年までに世界はどう改善しようと考えているのか、目標とターゲットを見てみましょう。

    飢餓を終わらせるだけではない

    目標 2. 飢餓を終わらせ、食糧安全保障および栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する

    2.1  2030 年までに、飢餓を撲滅し、すべての人々、特に貧困層および幼児を含む脆弱な立場 にある人々が一年中安全かつ栄養のある食糧を十分得られるようにする。 


    2.2  5歳未満の子どもの発育阻害や衰弱について国際的に合意されたターゲットを2025年までに達成するなど、2030年までにあらゆる形態の栄養失調を撲滅し、若年女子、妊婦・授乳婦、および高齢者の栄養ニーズへの対処を行う。


    2.3  2030年までに、土地その他の生産資源、投入財、知識、金融サービス、市場、および付加価値や非農業雇用の機会への平等なアクセスの確保などを通じて、女性、先住民族、小規模な家族経営の農家、牧畜家および漁師をはじめとする、小規模食糧生産者の農業生産性および所得を倍増させる。


    2.4  2030年までに、持続可能な食糧生産システムを確保し、生産性および生産の向上につながるレジリエントな農業を実践することにより、生態系の保全、気候変動や極端な気象現象、干ばつ、洪水その他の災害への適応能力向上、および土地と土壌の質の漸進的改良を促す。


    2.5  2020年までに、国内、地域、および国際レベルで適正に管理および多様化された種子・植物バンクなどを通じて、種子、栽培植物、飼育動物・家畜、およびその近縁野生種の遺伝的多様性を維持し、国際的合意に基づく遺伝資源および伝統的な関連知識の活用による便益へのアクセスおよび公正かつ公平な共有を確保する。


    2.a  国際協力の強化などを通じて、農村インフラ、農業研究・普及サービス、技術開発、および植物・家畜遺伝子バンクへの投資を拡大し、開発途上国、特に後発開発途上国における農業生産の強化を図る。


    2.b  ドーハ開発ラウンドの決議に従い、あらゆる形態の農産物輸出補助金および同一の効果を伴うすべての輸出措置の並行的廃止など、世界の農産物市場における貿易制限や歪みを是正および防止する。


    2.c  農産物商品市場およびデリバティブ市場の適正な機能を確保するための措置を講じ、食糧備蓄などの市場情報への適時のアクセスを容易にすることにより、食糧価格の極端な変動に歯止めをかける。


    【出典:IGES仮訳】

     この目標2とターゲットの興味深いことは、単なる栄養不良からより大きな目標へと一般化がされていることです。

    「飢餓を終わらせる」や「栄養改善」というと途上国の課題のように思えますが、「食糧安全保障」、「持続可能な農業の促進」はどの国、どの地域においても必要なことです。もちろん日本もです。

     特にターゲットの2.4以降は先進国でもまだまだこれから取り組むべき課題ですね。

    飢餓をビジネスにするのか!?

     目標2とビジネスの関係ですが… もちろん飢餓をネタに一儲けしようとか、そういうさもしい話ではありません。

     飢餓や極度の栄養不良の改善について言えば、これには緊急避難的措置が必要であり、ビジネスではなく善意で対応をする必要があります。

     しかし、栄養改善、食糧安全保障、持続可能な農業などについて言えば、これは企業がビジネスとして、あるいはビジネスの持続可能性のために取り組む課題として大きな意味があります。

     たとえば途上国における栄養改善をソーシャルビジネスにしようとしている企業は、日本にもあります。たとえば、味の素グループの「ガーナ栄養改善プロジェクト」がそれです。

     同社のアミノ酸を中心とした栄養についての高度な知見と技術。生産や流通のビジネスノウハウ。国際機関、現地政府、NGOとの協働による普及啓発。こうした様々な要素を組み合わせて持続可能な仕組みを作れるのは企業ならではです。

     また食糧安全保障やそれを支える持続可能な農業についても、今やグローバル企業が熱心に支援をしているのをご存じでしょうか?

     もっとも有名なのは恐らくユニリーバだと思いますが、拡大する生産を維持するために、同社は世界中で持続可能な農業の支援をしています。もはやそれをしないことには、原材料を安定的に確保することはできないからです。

     目標2のターゲットを見ると、これから食品飲料関連企業が何を考えるべきか、すべきかがよく整理されていると言ってもいいでしょう。食品会社がこのターゲットを意識しないことは、ほとんど自殺行為と言ってもいいぐらいです。

     もしあなたの会社が食品飲料に少しでも関わっているとしたら、今すぐこの目標とターゲットを精査することをお勧めします。
     
     
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