2015年9月7日
サプライチェーン管理

オリンピックでスポンサー以外の企業も気をつけなくていけないこととは?

 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。新国立競技場にエンブレム、トラブル続きのオリンピックですが… CSRの観点からは、これ以外にもちょっと気になることがあります。

 以下は今年の1月末に「サステナブルCSRレター」に掲載した記事ものですが、ちょうどこのときはユニクロのブランドを持つファーストリテイリングの中国のサプライヤーで人権侵害等の問題があることが、香港のNGO SACOMと日本のNGO ヒューマンライツ・ナウによって指摘され、その調査報告が発表されたすぐ後でした。

《関連記事》
ユニクロ中国国内製造請負工場における過酷な労働環境 NGOが潜入を含む調査報告書を公表」(ヒューマンライツ・ナウ)

 ファーストリテイリングは日本のアパレルブランドとして珍しく(^^;)、CSR調達を体系的に行っている会社です。実際に何をどこのレベルまで行っているかまではわかりませんが、かなり頑張っている企業と言っていいでしょう。

 それにも関わらずファーストリテイリングがNGOに目をつけられたのは、なぜなのでしょうか? もちろん、調達基準を設定しながら、サプライヤーがそれに違反することを見抜いたり、是正することができなかったとしたら、それは由々しきことです。一方で、調達基準をもうけるなどまったく行っていない企業では、そもそも「違反」という状態が有り得ないことになります(法律は別ですが…)。

 なんだかちょっと不公平なような気もしますが、これはそれだけファーストリテイリングが注目されているということなのかもしれません。NGOは、限られたリソースで調査をしています。調査結果が世間の耳目を集めた方がいいのです。

どんな企業が狙われるのか?

 もちろん規模の大きな企業の方が、影響や社会的責任が大きいということもあります。ですから一般的に、規模の大きな有名企業ほどこうした調査やキャンペーンの対象になりやすいという傾向があります。

 いずれにしろ、狙われがちな企業は、自分たちが狙われる可能性が高いということを意識し、気持ちを引き締める必要があるということです。

 なお、念のために付け加えれば、もちろんだからと言って、あまり規模が大きくない会社、一般には有名ではない会社が、自分たちは大丈夫、適当にやっていてもいい、と考えるのはもちろん間違いです。今回は触れませんが、そうした企業には別のリスクやプレッシャーがあるからです。

 さて、そのような一般論を踏まえ、日本企業はこれから特に気をつけなくてはいけないことがあります。それが今回紹介するオリンピックの影響です。詳しくは以下の記事をお読みください。

《月の便り》

「今度のオリンピックがもたらすものは?」

 さて、またまたサプライチェーン関連の不祥事が報じられました。CSR調達をしっかりとやっているはずの大企業のサプライヤーで、信じられないような違反行為があったと疑われることが、NGOから指摘されたのです。一体、どういうことなのでしょう。

 個別の事例はさておき、日本企業がサプライチェーンの問題に巻き込まれることは、今後残念ながら増えていくでしょう。世界的にサプライチェーンの管理が課題になっているからということもありますが、実は日本企業に固有の要因もあります。

 ちょっと意外かもしれませんが、それはオリンピックです。

 2020年に東京オリンピックが開催されることが決まり、経済や社会に良い刺激を与えてくれるものとして期待が高まっています。実際、多くのオリンピックにおいて、それを機に一気に社会インフラが整備されてきました。

 前回の東京オリンピックのときに実際にどうだったのか、私は直接は経験していませんが、新幹線や首都高速道路をはじめ様々なインフラが一気に整備され、テレビが普及したりゴミ収集車が大量に導入されたりと、市民生活も大きく変化したと聞きます。

 もちろんこれは、日本に、そして東京に、世界の耳目が集まるのを意識してのことです。日本は、見事に復興したことを世界に印象づけようとし、またそれに成功したわけです。しかし、世界からの注目を利用しようとするのは国だけではありません

 過去には、テロリストが平和の祭典を凶行の現場にするという悲劇もありました。そして最近では、NGOが世界にアピールする場所としても利用しています。

オリンピックはフェアプレー精神のはずですよね?

 少し前ですとオリンピックの開催にあわせて、スポーツアパレルメーカーが、サプライチェーンにおける問題を指摘されたこともあります。フェアプレーの精神とは相容れない、不公正な労働慣行の中でスポーツウェアが作られていた疑いがあったたためです。

 そうした「不祥事」が起きないようにというわけではないでしょうが、ロンドンオリンピックでは、”持続可能なオリンピック”を目標に掲げ、オリンピックの運営で使われるあらゆる物資やサービスについて、細かな調達基準が作られました。

 競技場の建物を作る木材、プログラムやチケットなどの紙、選手村や競技場で提供される食事、そして勝者に贈られるメダルと花束。およそ考えつくありとあらゆるものについて、環境面と社会面に配慮した原材料を使うよう、オリンピックとしての調達基準が作られたのです。

認証制度の普及も加速する!?

 東京オリンピックでも当然そうした配慮がなされることでしょう。日本では認証原材料の利用がイギリスほどは進んでいないところが気になるところですが、逆にオリンピックが認証制度の普及を後押しすることになるかもしれません。これから5年間は、ハコモノの社会インフラではなく、持続可能な社会に必要な制度的なインフラが一気に進むことを期待したいと思います。

 こうした流れの中、今までどおりの調達のやり方をしている企業は、ある日突然、不備を指摘されることになるかもしれません。これまではNGOからノーマークだった日本企業が、オリンピックを機に徹底的にマークされる可能性が高まるからです。

 一方、調達においてより様々な配慮を進める企業は、オリンピックだけでなく、2020年後の世界に相応しい企業として大きな商機を得ることになるでしょう。

 1964年の東京オリンピックが日本に大きな変化をもたらしたように、2020年の東京オリンピックもまた、様々な変化をもたらすことになりそうです。

初出:2015年1月29日発行 サステナブルCSRレター No.213

調達基準は?

 この問題についてその後の動きを少しだけ補足しておくと、2020年東京オリンピック・パラリンピックでも、やはり調達基準は作られるようです。このことは組織委員会の工程表にも掲載されています。

 ただそれをどのような形で進めるかは、今のところほとんどオープンになっていません。フェアプレー精神のオリンピックですし、この調達基準がこれからの日本における持続可能な調達に与える影響は非常に大きいはずです。ぜひこうしたプロセスについてはフェアかつオープンに行われ、良いレガシーを遺して欲しいですね。そして、くれぐれもこれ以上の「白紙撤回」は起きないことを祈りたいと思います。

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