2015年8月29日
人権

ビジネスが取り組むべき人権とは?

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 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。CSRの課題の中で、日本ではまだまだ馴染みが薄いのが「人権」かもしれません。2011年に公表された「国連ビジネスと人権に関する指導原則」こそよく聞くようになってきたかもしれませんが(あ、聞いたことがなくても大丈夫です。まだまだ知らない方の方が多いと思います…)、具体的に何をすればいいのかとなると、ピンと来ないという方の方が圧倒的でしょう。

 今年2月には「国連指導原則報告フレームワーク(The UN Guiding Principles Reporting Framework)」も策定されたもしたが、実際に人権レポートを発行したのは、まだ世界でもユニリーバだけかもしれません。日本企業について言えば、人権方針を定めているところも少数派なのではないでしょうか。

 ビジネスにとっての「人権」とは一体どのような課題なのでしょうか? どのような問題に対して、企業はどう対応することが求められているのでしょうか?

 「国連ビジネスと人権に関する指導原則」を普及させるために「ビジネスと人権フォーラム」という集まりがあります。そこでは何が議論されているのか、昨年12月のフォーラムに参加したサステナビジョンの下田屋さんにご報告いただきます。

 内容は少し難しく感じるかもしれませんが、そのような場合でも、この問題に関する”熱気”だけでも感じていただけたらと思います。

                          足立直樹

《欧州ここだけの話》#005

「第3回「ビジネスと人権フォーラム」参加報告」

                サステイナビジョン 下田屋毅

 国連主催の第3回目となる「ビジネスと人権フォーラム」が2014年12月1日〜3日にスイス・ジュネーブにおいて開催され、昨年に続き参加いたしました。このフォーラムは、2011年6月に国連人権理事会において承認された保護、尊重、救済のフレームワークである「国連ビジネスと人権に関する指導原則」の普及を目的として、2012年から年次開催されることとなったものです。

国家だけでなく、すべての企業に適用

 この「国連ビジネスと人権に関する指導原則」は、全ての国家と全ての企業に適用され、「国家による人権保護の義務」「人権を尊重する企業の責任」「企業活動による人権侵害を受けた者への救済」の「保護、尊重、救済」の3つの柱をフレームワークとして、国家と企業が実施することを明確にして31の「原則」に整理されたものです。そしてビジネスと人権フォーラムは、次を主要目的としています。

1.世界の全地域からのステークホルダーに対し、「ビジネスと人権」に関する対話の為の主要な会合場所を提供する。
2.指導原則を世界に拡散し実施の促進、また効果的で包括的なエンゲージメントの強化。
3.指導原則の実施にあたりトレンドと課題、模範事例を見つける手助けをすること。

 ビジネスと人権フォーラムは、2012年の第一回の参加登録者数が1,000人、2013年の第二回は1,700人、そして2014年の第三回は2,000人ということで年々参加者数が増え関心が高くなってきています。2014年の日本関係者は全体で15人弱とみられ、昨年に引き続き参加者が少ない状況でした。

 2014年のフォーラムのテーマは「グローバルにビジネスと人権を推進する:調整・順守・説明責任」。第三回目である2014年の議長は、アフリカ出身のイブラヒム財団議長、モー・イブラヒム博士が務めました。ユーモアを交える話ぶりの中にも議長としてのリーダーシップを発揮するものであり、この会議が参加者にとってより有意義で進展のあるものにするように促しているのが非常に印象的でした。

企業は計画を作る必要がある

 モー・イブラヒム博士は、開会式において、既存の「国連ビジネスと人権に関する指導原則」の周辺には何が来るべきかを問題提起し、「測定」、「監視」、「報告書の公表」について会場に問いかけました。イブラヒム博士は、「各国政府は、国家行動計画を発行しなければならない。企業は、企業の計画を開発する必要がある。市民社会は、国家と企業が計画を出すことを支援する必要がある。しかし、それぞれの計画は単独では十分ではない。我々には、測定のツールと進捗状況を報告するためのツールが必要である。国連ビジネスと人権に関する指導原則は素晴らしいが、誰もこれを導入せず、測定もしていない場合、価値がない。この場合我々はすべての時間を無駄にしている。」と述べ、これらツールの必要性とその活用を強調していました。

 開会式では、企業側の代表としての講演とパネルディスカッションがあり、ユニリーバCEOのポール・ポールマン氏、そしてネスレCEOのポール・ブルケ氏等がそれぞれ基調講演を行い、これら企業が推進するビジネスと人権の指導原則についての先進的取り組みを伝え、ビジネスを行う上での人権の尊重、人権に対する配慮の継続性、そしてトップがコミットメントし、そのリーダーシップを表すことの重要性を訴えました。

法制化されるのか?

 今回のフォーラムで、特に注目されたのは、2014年6月にエクアドル・南アフリカから提起され決定された国際的な条約締結による法規制化へ向けた国連の作業部会の設置についての第26回国連人権理事会決議26/9についてです。現時点では、国際的な合意に基づく「ビジネスと人権に関する指導原則」に則った企業の自発的な活動に委ねられていますが、2015年7月には、国連人権理事会の作業部会において条約による法規制化の作業が始められることになっています。

 法規制化の流れについて補足しますと、この歴史的な背景に、かつて国連で「多国籍企業及びその他の企業に関する規範」が、人権委員会の専門家による補助機関で起草され、本質的に国家が批准した条約の下で人権の義務を直接に企業に課そうとする動きがありました。しかしこの提案は、経済界と人権活動団体との間に埋めることのできない溝を作りだし、政府からの支持もほとんど受けられず、国連人権委員会は、この提案に関し意思表明をすることさえしませんでした。

法制化を求める声

 そのことを踏まえ新たな取組みとして、2005年に「人権と多国籍企業及びその他の企業の問題」に取り組むためにジョン・ラギー氏が国連事務総長特別代表に任命され、広範にわたる体系的な調査研究の末、2011年に発表したのが「国連ビジネスと人権に関する指導原則」なのです。このような歴史的な背景から、この条約による法規制化が、国連ビジネスと人権に関する指導原則の進展を弱める可能性があるとの懸念が指摘されていました。

 今回は、その条約締結による法規制化を提起したエクアドルのサイドイベントが2回開催され、エクアドル国連代表参事官ルイス・エスピノーサ・サラス氏が、エクアドルが提起にいたった理由を述べるなど関連するディスカッションが活発に行われました。そして決議26/9として作業部会が2015年7月から議論が始まりますが、それまでの間にこの活動を効果的に進めることができるように、エクアドルは共同で提起した南アフリカなどと活動をしていくとのことです。またエクアドルのルイス・エスピノーサ・サラス氏は、閉会式においてもパネルとして出席しスピーチを行い、多国籍企業による人権侵害が防ぎ切れていないのは国際的な規制がないからであるとし、多国籍企業による効果的な救済と犠牲者への賠償ができるようにと、条約の制定による法規制化の必要性を訴えました。

 閉会式で一番大きな拍手を受けていたのは、アムネスティ・インターナショナルのグローバル問題担当オードリー・ゴーグラン氏のスピーチです。「3年前の指導原則が出る前から状況は変わっていない」、また「今こそ条約による規制化が必要である。我々には条約が必要なのである。」と述べ、人権侵害を食い止め救済を行えるようにする法律の必要性を訴えました。

「指導原則は魔法ではない」

 閉会式の中で付言として、前国連事務総長特別代表であるジョン・ラギー教授がスピーチ。そこで指導原則が適用されている場所においては一定の効果を上げていることを強調し、「指導原則は魔法ではないので、導入しようとしなければその効果を発揮することができない」と述べました。また指導原則の導入とさらなる国際的な法制化に本質的な矛盾はないとしましたが、現在エクアドルなどから提起されている条約制定については、「多国籍企業だけを取り上げるのは問題であり、国内の企業を含むすべての企業が対象となるべきである」と事例を挙げて伝え、「効果のない条約は数多く存在し、その実効性には疑問がある」とし、「今までどおり指導原則の導入にあたり、一歩一歩着実に進むことが非常に重要だ」と述べ指導原則をこれまで以上に推進をしていくことを促しました。

 この第3回国連ビジネスと人権フォーラムの印象としては、条約による法制化を求める大きな流れの中で指導原則をどのように進めていくのかについて議論をする非常に重要な位置づけであったと認識しています。そして企業による指導原則の推進事例の紹介、NGOのそれぞれの立場からの意見の発信、また先住民族の方々が涙ながらに企業の人権侵害を訴える状況を目の当たりにする、世界で起きている企業の人権への取り組みと人権侵害について肌で感じることができるものであり、様々なステークホルダーとの対話ができる実践的で有意義な機会であったと考えています。

 このフォーラムは、登録制(無料)ですが誰でもが参加できるものです。次回2015年のフォーラムの日程は、既に2015年11月16日〜18日と決定しています。日本企業の方は、指導原則に関する取り組みや意見を発する場として是非足を運び、世界のビジネスに関わる人権の議論に加わって、今後の実践にさらにつなげる機会として欲しいと思います。
 
 
初出:2015年1月22日発行 サステナブルCSRレター No.212

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