こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。
グローバルにビジネスを展開するには、当然、グローバルな
視点が必要です。しかし、私たちはどうしても、自分が今いる
場所の視点から見てしまいがちです。
もちろんそれはある程度しかたがないことではあるのですが、
少なくとも他の視点があることは忘れないようにしなくてはい
けませんし、できれば時々でも別の視点から見てみるというこ
とを意識的にするといいのではないでしょうか。
そんなことを言っても… と思われるかもしれませんが、そ
んなに難しく考える必要はありません。別の場所や、別の立場
にいる方に話を聞けばいいからです。
そういう方々から話しを伺うと、ハッとしたり、なるほど!
と思うこともしばしばです。
さて、今回のNYサステナブル通信にはどんな発見があるでしょ
うか? 田中さんの話しをお楽しみに!
NYサステナブル通信 #002
言葉に惑わされない
FBCサステナブルソリューションズ 田中めぐみ
海外在住者として私が感じる日米間の違いの中に、”言葉の捉え
方”があります。たとえば、一時期日本で「CSRからCSVへ」といった論調の記
事をよく見かけました。ご存知の通り、CSRは企業の社会的責任(Corporate Social
Responsibility)であり、CSVはマイケル・ポーター教授が提唱し
た、共通価値の創造(Creating Shared Value)のことです。詳細は教授の論文やメディアの記事を見て頂ければと思います
が、ざっくりと言えば、ポーター教授の主張は、社会活動を責任と
捉えるのではなく、機会として事業に取り入れ、社会問題を解決し
ながら企業利益を生む、つまり、企業価値と社会価値を共存させ
る、ということです。素晴らしい概念ではありますが、アメリカでは、似たような意味
を持つ言葉として「トリプル・ボトムライン(社会(People)・環境
(Planet)・財務(Profit)のすべてで利益を生む)」や「自然資本主義
(自然資本と人的資本を資本主義に取り入れる)」などがあります
し、CSRは事業と無関係の慈善活動のみとは捉えられていないた
め、CSVという用語が特別注目されることはありませんでした。日本で殊更CSVが取り上げられたのは、ポーター教授人気もあ
るのでしょうが、CSRやサステナビリティの概念が深く考えられ
ていなかったからではないかと感じました。「エシカル」はエコなのか?
また、何年か前から日本で「エシカル」という用語が流行ってい
るようですが、これもアメリカでの認識とは少し異なります。日本では「環境・社会問題に配慮した」という意味で使われてい
るようですが、アメリカでは一般的に環境面は含まれません。環境面を含めてエシカルという用語を最初に使ったのは、欧州の
ファッション業界だと思います。2000年代中頃にイギリスやフラ
ンスで開催された、環境・社会に配慮したファッションショーでエ
シカルという用語が使われていました。恐らく、当初、社会面のみに配慮した”エシカルファッション”に
取り組んでいた欧州の団体が、次第に環境面も取り入れるようにな
り、言葉だけがそのまま残ったのではないかと推測します。アメリカでも、英仏にならい、環境面を含めて「エシカルファッ
ション」を使う人が多少いましたが、一般的には動物性素材を使っ
ていない、労働搾取していないなど社会面に配慮したファッション
を指しますし、ファッション以外の分野で、環境面を含めてエシカ
ルを使うことはないように思います。環境・社会の両者を表す言葉としては、「サステナブル(持続可
能な)」や「レスポンシブル(責任のある)」が使われることが多い
ですが、どれが”正しい”用語なのかは各人・各企業の考え方次第で
すから、特定の用語に統一する必要はないでしょう。もうひとつ例を挙げると、随分前に日本で流行った「ロハス
(Lifestyle of Health and Sustainability)」という用語も、発祥は
アメリカですが、アメリカでその言葉を知っている人はほとんどい
ませんでした。ロハスは良い概念だと思いますが、日本では言葉のイメージが先
行したため、たとえ考え方に賛同してもイメージに合わない人は排
除されていた感がありますし、言葉の流行が終わると共に概念も廃
れてしまったように見受けられ、残念に感じました。言葉より大切なもの
言葉を前面に押し出すことは悪いことではないと思いますが、日
本では次々と新しい流行語を作り出し、それに飛びついているだけ
のようにも見え、少し苦々しく感じます。環境・社会問題対策は流行とは相容れないものですし、大事なの
は言葉ではなく、その背後にある概念とそれを形にする手法です。アメリカでも言葉の流行はありますが、皆が一斉に飛びつくこと
はありません。言葉はあくまで主張や見解を伝えるためのツールで
すから、深く考え、明確な意見を持ち、それを行動に移している企
業が言葉に踊らされることはありません。概念を伝えていくことは地味で時間のかかる作業ですが、一度理
解してもらえれば言葉に固執する必要がなくなります。顧客ロイヤ
ルティを高めるためにも、バズワードに踊らされず、丁寧に自社の
考えや取り組みを伝えていく努力が必要なのではないでしょうか。
初出:2014年8月28日発行 サステナブルCSRレター No.192
※メールマガジンをご購読いただくと、このような記事をタイムリーにお読みいただけます。ご興味をお持ちの方は、ぜひ以下の欄からお申し込みください。↓
コメントを残す
コメントを投稿するにはログインしてください。