Response Ability Inc. Response Ability, Inc.

巻頭言集

【No.185】『本物のCSRへのお誘い』

===================================================
【No.185】 2014年07月11日
『本物のCSRへのお誘い』
===================================================

 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。明日の満月より一日早く、CSRに関わる旬のメッセージをお届けいたします。

 以前からこのメールマガジンをお読みいただいている方は、今年最初の号で「そのCSRは役に立っていますか?」というタイトルで私が書いた記事を覚えていてくださる方もいらっしゃるかもしれません。

 CSRが日本に紹介されてから早10年、かなり進化・深化する一方で、形骸化してしまったり、流行に左右されたり、そんなちょっとどうかなと心配になるような状況も散見されます。

 そして一番心配なのが、CSRの課題が増える中で、CSRの重要性は大きくなっているにも関わらず、CSR部の言うことが社内では必ずしも歓迎されていない、という状況です。

 つまり、「CSR部はいろいろとウルサイことを言ってくる」とか、「CSR部は稼ぐわけではないのに、要求が多い」と思われてしまうことです。

 もちろんこれはすべて誤解です。CSRは経営にますます重要になってきていますし、きちんとしたCSRを行なうことで業績にも良い影響があるのです。

 実際、私たちは本業の役に立つCSRしかお手伝いしません。なので、いまお手伝いしているのも、原料調達の安定化をはかることであったり、サプライヤーとの協働であったり、企業価値を高めることであったり、いずれも「役に立つ」CSRばかりです。

 例えば、このところ様々な原材料価格が高騰していますが、これらの多くがCSRと密接な関係があります。CSRをきちんと行なうことでこうした問題に効率よく対処できたり、リスクが管理できるのです。

 ところが、CSR部の方を除けば、多くの企業人はそのことを知りません。なので、「CSR部はウルサイことを言うだけで、役に立たない」、「CSR部はコストセンターだ」などと、誤解されてしまうのです。

 私たちがふだんお手伝いしていることは本業に役立つことばかりです。なのに、CSR部の方々があらぬ誤解を受けたり、社内で評価されないのは大変不本意です。また、事業へ直接的に役に立つかどうか微妙なCSRをまだ行っている会社があるとすれば、とても残念に思います。

 ですので、事業に役立つ「本物のCSR」をもっと世の中に広めたいと考えて、先月から新しい情報発信を始めることにいたしました。前回の《RAIからのお知らせ》でも少しご紹介しましたが、今日はあらためてこの「月の便り」を通じて正式にご案内させていただきます。

 本物のCSRのための情報サイト「サスナビ!」

 4ヶ月前から毎日動画を配信している「サスナビ!」チャンネルと同じ名前ですが、こちらはブログ形式で、毎回読み切りのサラッと読める記事にしていきます。

 「サスナビ!」の思いは、以下の記事からもお分かりいただけると思います。もしこの考えに共感いただけるようであれば、ぜひブックマークをお願いいたします。

 「本物のCSRへのお誘い」

 あなたが訪問して下さることをお待ちしています!

【No.183】『マテリアリティは特定できましたか?』

===================================================
【No.183】 2014年06月27日
『マテリアリティは特定できましたか?』
===================================================

 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。今日の新月にあわせて旬のCSRの話題をお伝えいたします。

 6月も終わりが近づき、サステナビリティレポートがちらほら発行され始めているようですね。今年のサステナビリティレポートの見所は、なんと言っても各社がマテリアリティ、つまり自社にとって重要な課題を何と考えているかでしょう。

 CSRご担当の方はもう先刻ご承知だと思いますが、念のためにここでもう一度、背景を確認しておきましょう。ことの起こりは、日本企業も多く参照しているグローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)が昨年2013年に発表したガイドラインの第4版、いわゆるG4です。

 これまで使われてきたガイドラインの第3版のG3やG3.1では、どちらかというと情報を網羅的に開示することが求められていました。しかし新しいガイドラインのG4では、報告する企業にとって重要と考えられる課題=マテリアリティについて詳しく報告することが求められているのです。メリハリの効いた報告にしましょうということです。

 ただし、です。報告側が勝手に「これが私たちが考えるマテリアリティです」と言っても恣意的になってしまうかもしれません。そのような意図はないにしても、見落としがあるかもしれません。なので同時に、なぜそれをマテリアリティだと特定したのか、その理由や、特定プロセスも報告することになっています。

 日本企業はこれまで網羅的で詳しい、つまり分厚いレポートを発行してきました。日本企業の「真面目さ」のなせる技だと思う半面、「どこの企業のレポートも似たりよったり」とか、「結局、何が大切なの?」という声も聞かれました。「これからもこのままでいいのか?」、そう悩んでいたCSR担当者の方々にとっても、G4の方針転換は福音だったのではないかと思います。

 一方で、自社のマテリアリティをどう決定するかは、なかなかの難問です。私のところにもいろいろな企業からご相談をいただきますし、マテリアリティを特定したいのでアンケートに答えて欲しいとか、インタビューさせてくれ、というご依頼をいただきます。

 なので、ご依頼をいただくと、資料を拝見しながら頭を絞って考えるのですが… 本当にこういうやり方でいいのかな、と悩んでしまうことも少なくありません。というのも、私がその会社の事業について知っていることはごく断片的なわけです。もちろん、全体像を掴みやすいようにと、その会社の方がいろいろと資料をご用意くださるのですが、資料を準備してくださった方が重要視していないことについての資料は当然含まれません。つまり、そもそも情報に選択バイアスがあるわけです。

 さらに、G4はサプライチェーン(調達網)についても情報開示することを求めていますが、サプライチェーンにおける影響まで考えるとなると、圧倒的に情報が不足しています。「そこをなんとかするのが専門家だろう」と怒られそうですが、一般的な議論や推論はできても、その会社の固有の事情まではわかりません。これはどんなに博識な専門家や有識者を集めたところで、同じことです。

 では、一体どうしたらいいのでしょうか? 少なくとも環境面については、一つかなり有効で確実な方法があります。環境影響を定量化すればいいのです。サプライチェーン全体にわたって定量化すれば理想的です。気候変動への影響と生物多様性への影響のように、性質がかなり異なるものもありますが、統合評価をすることで比較可能になります。

 それでマテリアリティがきちんと特定できるのか? と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実際にやってみるとかなり明確な傾向がわかりますし、定性的な推論をするだけよりはるかに説得力があります。

 なので、こうした手法や、先進企業がこれをどう活用しているかについて、もっと多くの企業の方に知っていただきたい思い、7月末にこれについてのセミナーを開催することにしました。ご興味のある方は、以下のお知らせをご覧ください。

 GRIは、GRIのガイドラインを参照する企業に対して、2015年までにはG4に切り替えるように求めています。今年、そして来年には、マテリアリティを的確に特定した素晴らしいレポートが、日本からもたくさん発行されることを楽しみにしています。

【No.181】『自然資本が環境白書にも登場』

===================================================
【No.181】 2014年06月12日
『自然資本が環境白書にも登場』
===================================================

 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。満月は明日ですが、一日早く、旬のCSRの話題をお届けします。

 前回ご紹介した『リスクにさらされている自然資本』の日本語概要ですが、たくさんの方々にお申し込みいただだき、ありがとうございました。お申し込みいただいた方々には、概要がもうお手元に届き、お読みいただいたかと思います。(未入手の方は、このメールの最後にあるリンクからお申し込みください)

 この概要をお読みいただくと、ビジネスや私たちの日々の生活が、どれだけ自然資本に負荷を与えているか、その大きさに驚かれたと思います。いくら「大切だ」と言っても、定量的に示されなければ本当の「大切さ」はわかりにくいですし、あるいは自社の売上や利益と比較可能な数値でなければ、切実な数字としては感じにくいでしょう。しかし、このレポートに示されているように、それがどのぐらいの大きさなのか、そしてそれが利益をどれだけ脅かすのかがわかれば、もうじっとしてはいれないはずです。まさにこれが、自然資本を可視化することの本当の意味(効果)なのです。

 先週6日に2014年版「環境・循環型社会・生物多様性白書」(環境白書)が閣議決定されましたが、その中で自然資本が大きく取り上げられ、また外部不経済の具体的な大きさを測定した例として『リスクにさらされている自然資本』も紹介されています(p.89)。

 また、企業に求められる国際的な動きとして、IIRCが統合報告フレームワークで自然資本についての報告を求め、GRIもG4でサプライチェーンを通じた環境影響の報告を求めていることが紹介されています。これらはすべて自然資本の定量化とつながっているのです。

 また、個別企業が自然資本を考慮した経営を行なっている例としては、これまで私たちが何度もご紹介してきたスポーツウェアのPUMAの事例が紹介されています。かつては「外部不経済」として企業活動や市場が無視してきたことが、自然資本を定量化することでいよいよ内部化されるようになってきたと、環境省の方々もきっと感慨深く感じているのではないと想像します。

 そして私たちもまた、これまで日本の企業の方々にご紹介してきた自然資本の考え方や定量化の手法が、このように環境白書の中で大きく取り上げられるようになったことはとても嬉しいですし、日本でもこれからいよいよ本格的な活用が始まることに期待しています。

 自然資本の定量化を自社の経営にどう活かすかについては、これからも具体的にご紹介していきたいと思いますが、今回一つだけキーワードを挙げておきたいと思います。それは「インパクト比」です。

 『リスクにさらされている自然資本』の中でも具体的な値が紹介されていますが、これは自然資本に対する影響(外部不経済)を売上高で割った値です。この値が1よりも大きい事業は、自然資本を収奪するだけで、しかも使った分の価値すら創り出せていない赤字事業です。一方、この値が1よりも小さければ小さいほど、その事業は使った資本よりも大きな価値を生み出している事業であり、持続可能性も高いと予想されるのです。この値が、これからの自然資本経営の重要な指標になることでしょう。

 はたして、あなたの会社の事業のインパクト比はどうでしょうか? そんなことを考えながら、このレポートや今年の環境白書を読んでみてはいかがでしょうか。これからの課題が浮かび上がってくるはずです。

【No.179】『サプライチェーンにはこんなにリスクがあった!』

===================================================
【No.179】 2014年05月29日
『サプライチェーンにはこんなにリスクがあった!』
===================================================

 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。新月にあわせて旬のCSRの話題をお伝えいたします。

 今年最初にお話ししたように、2012年は生物多様性にとって重要な年になりそうです。10月に韓国の平昌(ピョンチャン)で生物多様性条約のCOP12が開催されるからです。

 この重要な場で何が議論されるかもだんだん整理されつつありますが、企業に関連しては、原材料調達やその基準が大きなテーマになりそうです。また今回は、2020年に向けた「愛知目標」の進捗状況の中間報告がなされることになっていますので、世界中の先進企業が各社の進捗状況や思い切った目標を次々に発表することでしょう。

 その結果、始まることを予想すると… 生態系や生物多様性に対する影響(負荷)をこれ以上増やさないようにして、正真正銘の持続可能なビジネスモデルを確立する。その目標にどれだけ本気でコミットしているのか、肉薄しつつあるのか、この点がこれからの「良い企業」のクライテリアになるでしょう。

 機関投資家もそうした観点から投資先を評価・選別するでしょうし、何よりも、そうしたビジネスモデルを確立しないことには、ビジネスそのものが続かなくなることが見えて来たからです。

 例えば、この半年ぐらいの間に、原材料を持続可能なものに切り替えると宣言する企業がアメリカで増えてきています。こうした目標を掲げる企業は今までは欧州中心だったのが、その流れがアメリカにも波及し始めたのです。

 その背景には、アメリカでNGOがこの問題について企業を激しく攻撃し始めたこともありますが、企業経営者も「原材料の調達を持続可能にしないことには、ビジネスの継続はあり得ない」と発言しはじめており、かなり意識が変わってきたことがわかります。

 なぜこのような意識変革が急速に進んでいるのか、原因はいろいろあるのだと思いますが、おそらく一つには、自社のサプライチェーンを遡ってみたらがく然としたということがあるのではないでしょうか。

 つまり、自社内だけで環境の取組みを進めるのではなく、サプライチェーンを遡ってみたら、そこには自分たち自身の何倍もの環境負荷=環境リスクが存在していることに気付いたのでしょう。サプライチェーンでつながっていますので、それはサプライヤーのリスクというだけではなく、自分たちにとってのリスクなのです。

 これは、自社内だけでいくら努力を続けても、サプライヤーにも同じように頑張ってもらわなくては、ある日突然、事業が継続できなくなるかもしれないということです。

 日本企業は、自社内では環境負荷を減らすことにとても真剣に取り組んでいると思います。しかし、それだけでは自社の持続可能性は保証されないのです。

 では、私たちの事業活動がどのぐらい生態系と生物多様性に、つまり、自然資本に負荷を与えているのか? そのことに答えてくれるレポート『リスクにさらされている自然資本』が、昨年発行されています。もしこうした負荷を内部化したとすれば、世界の経済活動の1割以上にあたる7.3兆ドルがかかる、つまり、利益のかなりの部分が吹っ飛ぶという恐ろしい事実が報告されています。このことを知った企業人は当然、今までのやり方ではマズイと思うでしょう。

 既に英語でこのレポートをお読みになった方もいらっしゃるかもしれませんが、私たちはこの度、このレポートの日本語概要版の監訳を行い、また、来週から配布を開始いたします(http://www.responseability.jp/pj/ncr)。この機会にぜひ日本語でお読みください。きっと驚く発見があるはずです。そして、これを読めばなぜCOP12でこのことが大きな議題になるのかも理解できるでしょうし、その結果を待たずに自社の取組みも始めたくなるでしょう。

【No.177】『自然のリズムを感じています か?』

===================================================
【No.177】 2014年05月15日
『自然のリズムを感じていますか?』
===================================================
 
 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。満月がやってきましたので、これにあわせて旬の話題をお伝えしたいと思います。

 と、ここまではお馴染の書き出しです。ご存知のように「サステナブルCSRレター」は、これまで足かけ7年にわたり、満月と新月に発行してきました。これは、東京などの都会で生活をしていると、月の満ち欠けという自然のリズムをすっかり忘れてしまうので、それを思い起こすきっかけになればという思いによるものです。

 お蔭でいろいろな方から、「満月を楽しみにしています」とか、「月の動きが気になるようになりました」と言った言葉をいただき、嬉しく思っています。私自身も、気が付いた時にはなるべく夜空を見上げ、今日の月はどのぐらいかなと確かめています。

 そうやって月を見ていると、毎日それが実に大きく変化していくことに驚かされます。たとえば、月の出は毎日50分も遅くなります。形は前日との変化はわかりにくくても、2日経つと大違いです。地球や月がものすごい勢いで動いていることを実感する瞬間です。

 一方、こうした規則的な動きに加えて、季節の移り変わりというものもあります。季節というと、まず思い浮かべるのは春夏秋冬の四季でしょう。しかし、日本にはもっと多くの季節があるのをご存知でしょうか?

 二十四節気とお答えいただいた方、正解です。一年を24分割した二十四節気は、四季に比べてはるかに細かな季節の変化を表現できます。

 しかし実は、その二十四節気をさらに三つに細分した七十二候という暦があることをご存知でしょうか? 俳句をなさる方ならご存知かもしれませんが、一般にはあまり馴染みはないと思います。

 七十二候には生きもの様子が描写されていることが多いので、私はしばらく前から興味を持っていたのですが、これがよく見てみるとなかなか面白いのです。

 たとえば今日は七十二候では、蚯蚓出(みみずいずる)にあたります。ミミズが地面から出て来る頃という意味です。そして、明日からの5日間は、竹笋生(たけのこしょうず)、つまり筍が生えて来るというわけです。いずれも二十四節気では立夏なのですが、それよりも季節の動きが直接的に感じられる気がしませんか?

 私は、生きものと共存できる社会、共存できるビジネスのあり方をいつも考えていますので、生きものの変化が感じられる暦にはとても魅力を感じます。そして、この素晴らしい智慧を皆さんにもぜひ共有したく思い、これからは七十二候にあわせて「サステナブルCSRレター」を発行したいと考えました。

 ですが… 実際にこれにあわせて発行しようとすると、5日おきというのがちょっと微妙な間隔なのです。5日ごとに発行すると、しょっちゅう週末にかかってしまいますし、月の動きとも連動していません…いかに私たちが自然のリズムとは無関係に生活をしているのか、改めて感じた次第です(^^;)

 さんざん悩んだ結果、メールマガジンの発行は毎週一度とし、その中で発行日の七十二候をご紹介することにしました。また、これまでほぼ新月とほぼ満月にお送りしていた私の「巻頭言」は、「月の便り」と改題して引き続きなるべく新月と満月にお送りしたいと思います。

 発行間隔を短くすることで、よりタイムリーに役立つ情報をお届けできるようになりますので、弊社のスタッフや社外の専門方の方々に、それぞれの視点で「本物のCSR」につながる話題もご紹介いただく予定です。

 これからしばらくは試行錯誤を重ねてちょうど良い「リズム」を見つけていきたいと思います。もともと「ほぼ新月」、「ほぼ満月」と緩く始めたメルマガですので,そこはご愛敬と思っていただければ幸いです。それでも、視点のシャープさと、自然のリズムや自然の法則にはこだわっていきますので、引き続きご愛読いただけますようお願いいたします。

【No.176】『種をまかなくては…』

===================================================
【No.176】 2014年04月30日
『種をまかなくては…』
===================================================

 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。昨日29日が新月でしたので、これにあわせて旬の話題をお伝えします。

 いよいよ先週末からゴールデンウィークが始まりましたが、どのように連休を過ごされているでしょうか?もしかしたらこのメールも、休暇先でお読みになっていらっしゃるかもしれませんね。そして今日ではないにしても、連休中は自然の豊かなところに出かける予定という方も多いことと思います。

 かくいう私も、連休の間は東京を離れ、長野で過ごしています。春の到来が東京より一カ月ほど遅いので、ちょうどいまコブシが咲き、サクラもいよいよ満開、そして、樹々の若芽も膨らんで来たところです。わずか数週間前まではまだほとんど茶色一色だった世界が、急に鮮やかな色彩を帯びてきました。

 緑の多いところに来ると、季節の変化をしっかりと感じることができます。一週間前、いえ、数日前と比べても、蕾の膨らみであったり、葉っぱの量であったり、確実に変化していることが目で見てわかります。あぁ、この植物たちも生きているんだなぁ。季節は巡っているんだなぁと実感することができます。

 実はこれは、東京で暮らしていても、本当はわかるはずです。街路樹も、プランターに植えられた植物も、山の緑と同じように日々変化しているからです。数や種類が少ないので目立たないということもあるかもしれませんが、それ以上に都会にいるときは私たちの慌ただしさが、生きものの変化に気付き、それに心を動かす余裕を失っているだけなのでしょう。

 植物がゆっくりと、しかし確実に成長していくのは、もちろんゆえあってです。昨年の秋に葉を落としてからも、植物の体内では様々な準備が進められ、一方、ある種の活動はじっと休眠したまま時が来るのを待ち、そしていよいよ気温が緩み、太陽の光をいっぱいに受け、地面には適度な湿り気もある。そういう条件が整ったとき、ついに蕾は膨らみ、若芽から新葉が展開するのです。

 こうした植物の静かな営みを見ていると、それをひたすら粛々と進める植物の物言わぬ、しかし断固とした強い信念のようなものを感じますし(もちろん、植物が考えているわけではありませんけれど…(笑))、そしてそれを見事に開花、結実させるのは、やはりすべての必要な過程を経てのことなのだと思います。あたり前のことですが、生育の途中で得た水や栄養が、実の付き方を決めるのです。私たちの身体も、自分が食べたものだけで作られています。不自然なものを食べれば、身体に不自然な影響も出てくるでしょう。

 そして、そもそも種を蒔かなくては収穫はできません。私たちも行動をしなければ、結果を出すことはできません。適切な行動をせずに、良い結果が得られるわけはないのですが… 実際には結果にだけ注目してしまい、「なぜ成果が出ないのだろう?」となっていることも多いのではないでしょうか。

 つまり、あらゆるものには原因や過程があって、はじめて結果が出るということです。それは、植物の成長を見ているだけでも実感し納得できることです。しかし都会で、花屋さんから奇麗に咲いた花を買って来る生活をしていると、そんな単純なことすら忘れてしまうのかもしれません。

 季節の変化を身近に感じていただけるようにと、このメールマガジンは新月と満月という自然のリズムの節目にお送りしてきましたが、これからはより季節を身近に感じていただけるようにしようと思っています。ですので、5月中頃からは発送のタイミングをもうちょっと変えようと考えています。どんな風に変わるのかはまだヒミツですが、あなたもちょっと考えてみてください。

 そしてなんと言っても、これからは薫風薫る季節です。お近くでも結構ですので、ぜひ緑を見ながらゆっくりと散歩でもなさってみてください。植物をじっくりと観察すれば、きっといろいろな発見があるはずです。

 

 

【No.175】『スコープ3の真の目的は?』

===========================================================================
【No.175】 2014年04月15日
『スコープ3の真の目的は?』』
===========================================================================

 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。また満月が巡ってきました。旬のCSRに関する話題をお届けしたいと思います。

 このメールマガジンをお読みのあなたのところにも、もしかしたらCDP(カーボンディスクロージャープロジェクト)から今年の調査への回答依頼が届いているかもしれませんね。

 そこで今回は、前回の巻頭言で最後に書いた「なぜスコープ3で報告するのか?」ということについてお話をしたいと思います。

 言うまでもなくスコープ3とは、自社による直接的、間接的な温室効果ガスの排出に加えて、サプライチェーンにおける排出量まで含めるという範囲(スコープ)の定義です。一昔前の環境管理であれば、自社の工場やオフィスで使用する電力、ガス、油の量を測定し、それに排出係数をかければ済んでいたわけですが、通勤、出張はもちろん、サプライチェーンにおける温室効果ガスの排出量もきちんと管理しなくてはいけなくなると、たしかにこれはかなり大変です。

 環境報告書のために社内の環境データをまとめるだけでも忙しいのに、これ以上手間がかかることは勘弁して欲しい。しかも、自社内だけならともかく、サプライヤーやさらにその先となると… そんな担当者の嘆きはよ〜く理解できます。たしかに大変です。

 しかし、スコープ3でGHG排出量を管理することで、企業にとっても明らかなメリットがいくつもあります。

 まず一つは、自社が環境マネジメントや持続可能性という重要な課題について積極的であることを機関投資家にアピールできることです。もちろんスコアが良いに越したことはありませんが、多少スコアが悪かったとしても、参加しないよりは良い印象を与えることはできます。

 そしてこれがもっとも重要なことですが、サプライチェーンの中でホットスポット(もっとも排出量が多いところ)を特定することにより、どこを改善するのが効果的かがわかるということです。サプライチェーン全体の競争力を向上させたり、将来のリスク要因をつぶすために、これは大きなことです。

 さらに、社内やサプライヤーの意識向上にも役立てることができます。なぜスコープ3での測定が必要なのか、また、その結果何がわかったのか。そうしたことを社内外にきちんと説明することにより、今後の改善がやりやすくなるでしょう。

 こうして整理してみてわかるのは、スコープ3による報告のメリットは、その結果をどれだけ活用するかにかかっているということです。つまり、報告することが目的ではなく、報告した後のデータの活用こそが真の目的だということです。前回ちらりと書いたのは、まさにこのことなのです。

 このように、目的を意識した上で取り組めば、スコープ3の報告は、労力をかけただけの、いやそれ以上の効果が期待できます。ぜひそうした意識をもって取り組んでいただければと思います。そして、具体的な進め方についてアドバイスや支援が必要な場合には、もちろん私たちがお手伝いをいたします。

【No.174】『なんのためのCSR?』

===========================================================================
【No.174】 2014年03月31日
『なんのためのCSR?』
===========================================================================

 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。明日からいよいよ新年度ですが、新月はそれより一日早く来ました。新年度より一日早く、旬のCSRに関する話題をお届けしたいと思います。

 新年度になると、CSR部や環境部に新しい担当者を迎えるという会社も多いのではないかと思います。あなたの部門にもしそのような方がいらっしゃたら、ぜひこのメールマガジンもご紹介ください。きっとお役に立つと思います。

 「サステナブルCSRレター」講読お申込み

 宣伝はさておき(笑)、新しく加わった方々も含めて、なんのためにCSRをしているのか、この機会にもう一度社内で確認してみるのはいかがでしょうか? というのも、これはCSRに限りませんが、言葉が普及するにつれ、その本当の目的であったり、それがどういう背景のもとで必要とされ始まったものなのか、曖昧になることがよくあるからです。

 日本のCSR元年と言われたのが2003年ですが、それから既に10年以上経ちます。多くの会社で、当時CSRを担当した方はもう他の部署に異動になられているのではないかと思います。あなたの会社はどうでしょうか?

 2003年頃にCSRについて勉強したり、議論していた方々は、「CSRとは何ぞや?」、「何のためにCSRをするのか?」ということを真剣に考え、そしてそれを自社にどう活かそうかと悩んで、CSRの目標やプログラムを作られたと思います。

 しかし、時間が経ってくると、当初の思いや議論のことは次第に忘れられ、あまり意味を深く考えることなく、活動だけが続いている。そういう場合もあるのではないかと思います。

 前回話題にしたCSVにしても、アメリカと欧州でCSRについての意識が違うことを理解していれば、そして欧州型のCSRが世界をリードしていることを認識していれば、「これからはCSRではなくCSVだ」という言説は出て来ないはずです。

 そういう言説が出て来るところを見ると、やはりそろそろ原点に立ち返えること、そして現在の自社の状況を鑑みて再びCSRの目的や目標を見直すことが必要なのではないかと思うのです。

 このことは、「スコープ3」や「マテリアリティの特定」についても当てはまります。スコープ3で温室効果ガスの排出量を報告したり、自社のマテリアリティをきちんと特定しなくてはいけないということに対して、負担が増えたとネガティブに捉えている方もいらっしゃるようですが、本当にそうなのか? ということです。

 スコープ3もマテリアリティの特定も「報告」のためだけであれば、たしかに面倒な負担が増えたということになるかもしれません。しかし、なぜスコープ3で報告するのか、なぜマテリアリティを特定するのかという意味を理解していれば、そしてその結果を業務改善や経営判断に生かすようにすれば、非常に意義のあることになります。CSRや環境の仕事の本当の意義を社内に理解してもらうまたとないチャンスとも言えるでしょう。

 目的を意識して活動するのと、やらなくてはいけないから活動する。その差はとても大きいと思います。これについて、詳しくはまた次回以降お話ししましょう。

【No.173】『CSVから本物のCSRへ』

===========================================================================
【No.173】 2014年3月17日
『CSVから本物のCSRへ』
===========================================================================
 
 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。昨夜の満月を、私は広島で見ました。平和公園の上の満月を見ながら、今の私たちの状況を先人たちはどのように思うのだろうと考えてしまいました。持続可能性もまた平和がなければ成り立ちません。すべての人が希望をもって暮らせる持続可能な社会を目指して、引き続き頑張りたいと思います。

 さて、今回取り上げたいのは、CSV(Creating Shared Value=共通可価値の創造)という考え方です。CSVは日本ではかなり好意的に受け入れられているようで、社会課題や環境課題にビジネスとして、つまり本気で取り組もうと考える企業が増えてきているようです。

 今までもよく言われてきた「本業を通じたCSR」を体現する動きとして、あるいはさらにそれを強化する動きとして、CSVのきちんとした事例が増えることは歓迎すべきことだと思います。

 その一方で、「CSRはもう古い」、「これからはCSRではなくCSVだ」という声も聞こえてくるようになって来たことにはいささか懸念しています。

 というのも、CSVはあくまで(欧州型の)CSRの一部であり、既存のCSRの内容を置換えられるようなものではないからです。もっと言えば、CSVはあくまでビジネス戦略であり、社会が企業に期待する役割から発している欧州型のCSRとは明らかに出発点が異なるのです。

 前回、現場でのリアルな体験が重要ということをお話ししました。CSRとCSVの違い、もっと根本的には欧州型のCSRとアメリカ型のCSR(そもそもアメリカではあまりCSRという言葉すらあまり使いませんが…)の違いなども、CSRの国際的な会合などに参加していれば、すぐに気が付くでしょう。

 それはさておき、同様の懸念を持つ専門家の方々も多いようで、先週13日に大阪で「広がる企業の人権・労働課題ーCSVはCSR課題を解決できるか」というシンポジウムが開催され、その席上で「CSRとCSVに関する原則」が発表されました。私はシンポジウムには参加できませんでしたが、原則に署名だけさせていただきました。

 詳細については現在ウェブサイトが準備されているところだそうですので、原則のポイントだけご紹介しましょう。

 1. CSRは企業のあらゆる事業活動において不可欠です。
 2. CSVはCSRの代替とはなりません。
 3. CSVはCSRを前提として進められるべきです。
 4. CSVが創り出そうとする「社会的価値」の検証と評価が必要です。

 冒頭にも書いたように、きちんとしたCSVが増えれば、それは社会にとって非常に好ましいことですが、その前提としてきちんとしたCSRも確保しなくてはいけないということです。

 私どもレスポンスアビリティでは「本物のCSR」という言葉を使って、社会にとってはもちろん、自社にとっても意味のあるCSRを推進する必要性を強調し、またそのようなCSRの推進のお手伝いをしています。

 CSVが進むことには賛成ですが、それと同時にCSRを再考し、「本物のCSR」に腰を据えて取り組むことも忘れないようにしていただきたいと思います。なぜなら、それは必ずあなたの会社を良くすることにつながるからです。

【No.172】『リアルな体験も忘れずに』

===========================================================================
【No.172】 2014年3月3日
『リアルな体験も忘れずに』
===========================================================================

 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。土曜日が新月でしたので、週明けの今日、旬のCSRの話題をお届けいたします。

 前回のメールマガジンを出す直前の2月17日に東京で、環境省などの主催で「自然資本と企業・自治体経営」という国際シンポジウムが開催されました。かなり専門的なテーマであったにも関わらず、企業を中心に300名近い参加者があり盛況でした。読者の中にも参加された方がいらっしゃるかもしれませんね。

 私は最後のパネルディスカッションに登壇しました。本当は、日本企業が自然資本という考え方や自然資本会計を経営にいかに活かしているかを紹介したいところだったのですが、残念ながらまだそうした例はほとんどありません。なので、私からは参加してくださった日本企業の方々に、自然資本会計が今後の企業経営にいかに役立つかをご紹介するに留まりました。

 一方、海外、特に欧州では企業も国も、自然資本という考え方を経営に盛り込み、またそのために自然資本会計の方法論や実践が急速に進んでいることが報告されました。

 私自身は一応この分野を専門としていますので、日ごろから情報収集に努めていますし、また、海外の仲間からもいろいろな話を聞きます。しかし、この一年のスピード感には正直ちょっと驚いています。

 何が彼らをここまで追い立てているのかと思うほど、次々に様々なプログラムや団体が作られ、ちょっとした「自然資本会計ブーム」と言ってもいいほどです。

 ますます広がる国内外の温度差に、このままで大丈夫なのかと危機感を感じるほどです。そして、なぜここまでにギャップが広がるのかと、不思議になります。

 原因の一つは情報が不足しているということなのかもしれませんが(そして、そういうことにならないように私たちがもっと頑張る必要があるということなのでしょうが…)、もう一つはリアルな体験の多寡なのかなと思います。

 単なる「情報」だけであれば、インターネットがこれだけ発達した今の時代、世界中どこにいても、ほぼ同じ情報に接することができます。言葉の壁もあるかもしれませんが、たいていの情報は英語ですから、頑張ればなんとかなるはずです。

 それよりむしろ、いろいろな会議やイベントに実際に参加して、そこにどんな人々が集まり、どんな勢いや様子で話をしているか、そういうことをリアルに感じる体験が圧倒的に違うのではないかと思うのです。

 情報を得るだけであれば、後から会議の結論を文書で読んだり、プレゼンテーションの資料をペラペラめくるだけでもこと足りるのでしょう。しかし、こうした動きの「勢い」や現場の熱気は、やはりその場にいないと感じにくいものです。まさに温度感なのですから。

 「極東」の島国としては辛いところですが、いやだからこそ、意識的にリアルな体験の機会を増やすことが重要なように思います。

 生物多様性条約の第12回締約国会議(COP12)は、10月にお隣の韓国で開催されます。それ以外にも、アジアでも案外いろいろな国際会議やイベントが開催されれています。ご自身が一番専門とする、あるいは興味をお持ちの話題について、まずは自分で参加してみることも、大切なのではないでしょうか。


      次の記事へ >>