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巻頭言集

【No.161】『ブラック企業と呼ばれないために』

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【No.161】 2013年9月5日
『ブラック企業と呼ばれないために』
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 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。今朝の東京の豪雨は凄かったですね。また、日本各地から大雨や竜巻などの異常気象のニュースを毎日のように聞きますが、あなたのお住まいの場所は大丈夫でしょうか?

 さて、新月が巡ってきましたので、旬のCSRの話題をお届けしたいと思います。

 最近ニュースでよく「ブラック企業」という言葉を聞きます。とてつもない過重労働が続いて自殺したとか、うつ病になったとか… あるいは、ブラック企業と名指しされた企業のトップが、「我が社はブラックではない」と抗弁したりと、かなり混戦模様です。

 「ブラック企業」と名指しされると、企業の評判が落ちるのはもちろん、就職活動をする学生からも敬遠されたりと、企業にとっても大きなダメージとなります。

 日本ではまだ顕在化していませんが、これがさらに社会問題化すれば、そうした企業の製品やサービスが消費者から敬遠されたり、あるいはそうしたことに巻き込まれるのを怖れる取引先から取引を中止されたり… そんな企業にとっての致命傷にならないとも限りません。

 さらに企業にとって困ることは、特定の産業に属しているというだけで、中小企業というだけで、ブラック企業であると誤認されてしまうことです。あらぬ噂ではあっても、一度ブラック企業であるとネットなどで「認定」されてしまうと、これを覆すのは大変でしょう。

 また、ブラック企業の条件の一つに長時間の過重労働がありますが、そもそも日本の職場は他国に比べて残業時間が長い傾向がありますし、特にサービス残業という悪しき習慣もあります。職場での同調圧力から、残業をしないで定時に帰ることや、残業をしたらその分きちんと残業代を支払ってもらうという正当なことが「憚られる」雰囲気があった(ある?)のです。

 さらには、私たちを含め、消費者が安い価格で高いサービスを求め過ぎているという社会的背景もあり、この問題を解決するのはそう簡単ではありません。

 ブラック企業が社会問題化しつつある中で、政治も動き出し、厚生労働省が監督指導を集中的に実施するなどという動きも報じられています。きちんとした対策が講じられるのはもちろん結構なことです。しかし、ブラック企業を槍玉にあげるだけで、厳しく取り締まるだけで、本当に問題は解決するのでしょうか。私は疑問に思います。

 この問題を根本的に解決するためには、長時間労働やサービス残業という問題に正面から取組み、本質的な解決方法を取ることが必要です。そしてそれこそまさに、いま国際的なサプライチェーンマネジメントで求められていることなのです。

 国際的にも、ブラック企業と同様の問題はあります。そして、問題はグローバルなブランド企業からサプライヤーに押し付けられがちです。もちろんそれは正しいことでも、本質的な解決でもありません。それをブランド企業とサプライヤーの双方できちんと解決していこうというのが、「サプライチェーンマネジメント」や「CSR調達」の本質なのです。

 最近、日本国内でもサプライヤーに対してCSR調達の調査や監査を行う企業が増えてきました。私たちもそうした調査に関わった経験から言うと、日本国内にはまだきちんとしたCSR対応ができていないサプライヤーがたくさんいらっしゃいます。それをどう解決していくか。これこそ、ブラック企業を、あるいは逆にブラック企業と混同される企業をなくす道だと思います。

【No.160】『もう赤字です!』

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【No.160】 2013年8月21日
『もう赤字です!』
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 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。満月の今日、旬のCSRの話題をお届けしたいと思います。

 さて、先週はお盆でしたので、お休みだった方も多かったのではないでしょうか。私も休みを取って、緑の中で過ごして来ました。お蔭でしばらくは暑さとはほぼ無縁となり、夏バテ気味だったら体調もかなり回復した気がします。

 緑に囲まれて暮らすと、ふだんの生活ではあまり意識しない「生態系サービス」、つまり自然の恵みを実感し、それが私たちに本当に役に立っていることを思い出します。

 山の近くとはいえ、アスファルトの道路の上ではとっても暑いのに、樹々に囲まれた小径に入った途端、体感できるほどにすっと温度が下がります。川の近くに行くと、川面を渡る風に加えて、爽やかな流れの音からも涼しさを感じます。

 夜には自然と月を見る機会も増え、毎日少しずつ月が大きくなってくるのを見ながら、メルマガの発行日が近づいて来てくることを体感していました(笑)。

 そんなわけで、自然の中でリフレッシュして、今週からまたバリバリ仕事をしようと思っていたら… いきなり、バッドニュースです。なんと、昨日、8月20日をもって、今年の予算をすべて使い切ってしまったのです! いえ、私どもの会社の話ではありません。これを読んでいるあなたにも関係がある話です。なぜならこれは、私たちが今年の地球の予算を使い切ってしまったという話だからです。

 これはエコロジカル・フットプリント、つまり私たちが毎日の生活や事業活動で地球に与えている負荷を面積に換算した指標で測定した結果なのですが、8月20日までの231日間で、私たちは既に地球1個分の面積を使ってしまったのです! この先、年末までの134日間は、私たちは地球の資産を食い潰しながら生活することになります。

 持続可能な生活、持続可能な事業のためには、支出を収入の中、予算の中に収めなければいけないことは誰にでもわかる話です。そして実際、私たちはそうやって予算管理をしながら、生活や、事業活動を行っています。ところが、私たちのあらゆる活動をもっとも根本で支えている地球の自然資本については、私たちは赤字でもお構いなしなのです。

 予算を使い切ってしまい、この後はもう赤字になってしまう。そういう日のことを、「アース・オーバーシュート・デー」と呼んでいますが、今年2013年について言えば、まさに昨日の8月20日がオーバーシュートした日でした。そしてこれは昨年に比べると2日、一昨年の2011年に比べるとなんと1ヶ月以上も早い到来でした。つまり、私たちが地球を消費する速度は年々早まっているということです。

 地球の限界の中で生活することなんて出来るのだろうか? そう思われるかもしれませんが、私たちが赤字に陥るようになったのは1970年代になってのことです。1961年と比べて、今年のフットプリントはなんと倍になっているそうです。

 これはもちろん、地球の人口が増加したからではあるのですが、それより問題なのは私たち一人あたりの資源消費量が増えたことです。今年はもう使える資源をすべて使い切ってしまいましたが、使い方を変えれば、オーバーシュートの日をもう少し先に延ばすことはできるはずです。

 東京に戻って来ると、お盆を過ぎたとはいえまだうだるような暑さの日々です。エアコンを使って夜遅くまで明かりを灯し、たくさんの資源を使うという、自然の摂理には反した生活に舞い戻りです。この生活スタイルを変えないことには、アース・オーバーシュートはなくせません。しかし、それは生活としてはけっして悪くはないと思うのですが、いかがでしょうか?

 今の生活を続けながら節約や改善を積み上げて、負荷を減らしていくのか。それとも、生活スタイルを抜本的に変えるのか。あなたなら、どちらのやり方を選びますか?

#参考リンク
地球の「使い過ぎ」注意報! 8月20日は「アース・オーバーシュート・デー」
(WWFジャパン)

Earth Overshoot Day – In 8 Months, Humanity Exhausts Earth’s Budget for the Year
(Global Footprint Network)

訂正:前回の巻頭言で「ISO26000」とすべきところが、「ISO2600」となっていました。お詫びして訂正いたします。

【No.159】『サプライチェーンはどこで切れるか』

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【No.159】 2013年8月7日
『サプライチェーンはどこで切れるか』
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 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。今晩は新月です。来週のお盆に向けて、そろそろ夏休みという方も多いのではないかと思います。夏休みには、連日の暑さで疲れた身体をゆっくりと休め、しっかりと英気を養ってくださいね。

 さて、今年も既に折り返し地点をかなり過ぎていますし、お盆も過ぎればいよいよ本格的に後半戦です。この機会に、今年のトレンドとこれから残りですべきことについて少し考えてみたいとと思います。

 今年2013年は、日本におけるCSR元年と言われる2003年からちょうど10年目にあたります。当初は日本中がCSRって何?という状態でしたが、最近はあなたの社内でも2世代目、3世代目のCSR部員が誕生し、活動は着実に広がっているのではないかと思います。

 CSRの取組みが始まった頃、特にピンとこなかったはサプライチェーンの扱いではないでしょうか。社会からの要請や期待に自社が応えるのは当然としても、それを取引先にまで求めるのか? 求めることができるのか? そんな質問をよくいただきました。

 しかし、ISO26000が発行されて既に3年近くが経ち、今年発行されたGRIのG4でもサプライチェーンは報告項目となりました。レスポンスアビリティが一番得意とする生物多様性や自然資本の分野でも、サプライチェーン全体にわたって影響を把握して管理するというのは、当然のことになっています。

 では現実の問題として、そのサプライチェーンについてどう働きかけたらいいのかということについて言えば、CSR調達という考え方があり、それが様々な業界で広がっているのはよくご存知のことと思います。

 レスポンスアビリティもCSR調達の規準作りや実施について、おそらく日本でもっとも先行する事例を作り上げるお手伝いを手がけましたし、国内外への水平展開なども行なってきました。生物多様性が専門の会社だと思われることが多いのですが、実はCSR調達も得意にしています。

 そのCSR調達に関して、最近になってまた引きあいが増えています。理由は各社様々のようですが、CSR調達を本格的に始めたい、広げたい、深めたい、そういうご希望が増えているのです。

 CSR調達はもう十分に浸透したのかと思っていたのに急にご相談が増えたことが驚きでもあったのですが、実際に新しいプロジェクトを始めてみると今度は別の事実にまた驚かされました。

 実は、日本国内では、中小企業はもちろん中堅企業においても、CSRが実質的にはほとんど浸透していない企業がまだ少なくないようなのです。国内のサプライヤーについてCSR調達のためのアンケート調査をすると、CSRの推進が出来ている企業と出来ていない企業のあまりの落差に愕然としてしまいます。

 最終ブランド企業である大手メーカーがCSR調達を推進するのは、サプライチェーン上のリスクは自社のリスクでもあるということを認識してのことだと思います。つまり、「CSR調達もやってますよ」というポーズではなく、サプライヤーにCSRに本気で取り組んでもらうことが、自社のリスク管理上必要だから行っているはずです。

 一方、サプライヤー側について言えば、なぜCSRに取り組まなければいけないかが、まだあまり腑に落ちていない企業が多いのではないでしょうか。意味もわからず、言われたからやっている。あるいは、CSRなんて大企業のものだと思っている。そんな意識が見え隠れします。

 しかし、この10年の間に、明らかにCSRは企業が生き残るための条件となりました。大企業が「お行儀」が良いことを社会にアピールするためのものではなく、自社の事業活動を継続させるために必要で有効な行動だということがハッキリしたのです。

 この10年で大企業の中にCSRがかなり根付いたことは素晴らしい成果だと思います。今度はそれをCSRをきちんと身につけた企業が、自社のサプライチェーンにもしっかりと展開していく、そういう段階に入ったのではないかと思います。だからと言って、それは中堅企業や中小企業の問題ではありません。自社のサプライチェーン全体にCSRを根付かせないことには、自社の継続性が脅かされてしまいます。長いチェーンは、一番弱い箇所が切れて分断するからです。つまり、サプライヤー企業にCSRをしっかり根付かせることは、あなたの仕事なのです。

【No.158】『未来の視点はありますか?』

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【No.158】 2013年7月23日
『未来の視点はありますか?』
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 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。真夏の満月が巡ってきました。他の季節とは少し違って見えるのは、暑さのせいでしょうか。この満月に合わせて、旬のCSRの話題をお届けいたします。

 この季節は、仕事柄、いろいろな企業から環境報告書をお送りいただいたり、それについて意見を求められたりします。また、経営や環境活動の中長期計画についてご相談をいただく機会も多くなります。皆さんとても精緻で緻密な報告書や計画を作られており、日本企業はさすがだなと思います。

 ただちょっと気になるのは、その多くが過去の事実についての細かい数字で埋められたもので、そこから活き活きとしたストーリーが浮かび上がってこないことです。最近コミュニケーションの手法としてストーリーテリングの重要性がよく言われますが、そうした観点からすると、いまの報告書や計画はちょっともったいない気がします。ご担当の方々が一生懸命に作っているのに、読者の記憶に残り、読み手を突き動かす力がまだ弱そうに思えるからです。

 「いや、報告書はあくまで報告なのだから、過去の事実を正確に書くことが重要なのだ」という反論も聞こえてきそうですが、本当にそうでしょうか?

 私は、報告書は過去のことを報告するだけのものだとは思いません。投資家の方もよく、過去の事実はすべて株価に「織り込み済み」とおっしゃいます。ですので、株を買うために必要な情報は、その会社がこれからどうするかだというのです。数字だらけのイメージのアニュアルレポートですら、過去の数字だけではなく、未来のビジョンの方が重視されるのです。

 持続可能性を目的とする環境やCSRの報告書であれば、なおさら未来のビジョンやそこに到る道筋、つまりストーリーが語られてしかるべきなのではないでしょうか。読者が本当に求めている情報は、この会社がこれからどうなるか、それを会社がどうしようとしているのか、なのです。

 環境やCSRのご担当の方であれば、バックキャスティングという言葉をよくご存知だと思います。もし私たちが本当に将来のことに興味があるのであれば、能動的に未来を作りたいと思っているのであれば、自然に将来の姿(ビジョン)からバックキャストした計画を作るはずです。なのに過去の数値をそのまま羅列したような報告や計画になってしまうのは、思いとは裏腹に、未来よりも過去ばかりを見てしまっているが故ではないでしょうか。

 しかし本当は、報告書や計画作りを通じて会社経営に「未来」という視点を持ち込むことが、環境やCSRの担当者の重要な役割なのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。あなたの会社の中で、持続可能性やバックキャスティングを一番良く理解しているのはあなたなのですから。

【No.157】『今年は千年猛暑?』

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【No.157】 2013年7月8日
『今年は千年猛暑?』
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 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。また新月が巡って来ましたので、旬のCSRの話題をお届けしたいと思います。

 ところで関東地方では平年より15日も早く、梅雨が明け、今日も大変な暑さです。夏バテにはくれぐれもご注意ください。

 今年の梅雨明けは統計開始以来過去4番目に早いものでしたが、それだけでなく、この夏は「千年猛暑」になると気象予報士の森田正光さんが予想して話題になっています。千年に一度の猛暑って、一体どんな暑さなのでしょうか。想像しただけで汗が出てきます…

 本当に千年に一度かどうかはともかく、2週間も早い梅雨明けや、いきなりの猛暑日はあきらかに異常気象と言っていいでしょう。気象予報士に言われなくても、誰もが自分で「これは異常だ」とわかります。

 しかも異常なのは、今年だけではなく、このところほとんど毎年です。もちろんそれは日本だけでなく、世界中から酷暑、旱魃、洪水、豪雨、竜巻、ハリケーン… と、様々な「異常」気象の報告が聞かれます。

 では、一体いつぐらいから地球は異常気象の時代に突入してしまったのでしょうか? 「私が子供の頃は、夏でももっと涼しかった」という話をよく聞きます。気象統計を見なくても、たしかに数十年前は今よりは暑くなかったと、誰もが同意するでしょう。

 でも、いつぐらいから本当に「異常」になったかについては、なかなかはっきりと言うことはできないのではないでしょうか。

 これは一つには、ある年から突然に異常気象になるからではない、変化が連続的であるということもあるでしょう。しかも、たとえある年は異常値だったとしても、次の年はまた平年並に戻り、またその次の年に… というように、バラツキがあることも理由でしょう。

 しかしそれ以上に大きな理由は、私たちが変化を認めたくたいと思う気持ちにあるのかもしれません。未知のレジーム(領域)に突入することには、誰でも直感的に恐怖を感じます。だから、レジームがシフトした、つまりもう元のレジームには戻れないような変化が起きてしまったことを、私たちは認めたくないのでしょう。

 しかし、それでもレジームシフトは、起きるときには起きるのです。気候について言えば、今までの常識が通じない時代にもう突入してしまったようです。

 だとすれば、たとえその世界には不慣れだとしても、それは自分にとっては不都合だっとしても、新しい世界にさっさと適応する方が、うまくやっていけるのではないでしょうか。

 実は今日お話をしたかったのは、異常気象の話ではありません。たとえば前回お話しした非財務情報の開示もそうですが、おそらく世の中の仕組みがいまものすごい勢いで変わっているのです。これまで、特に1990年代ぐらいまでうまく行っていたやり方は、今はもう通じなくなって来ているのではないでしょうか。この十数年の日本の変化(あるいは不変化)を見ていると、そんな風に思えてしかたありません。

 環境とか、CSRとか、そんなことよりまずは利益を確保することだ。それとも、利益を出すためには、環境やCSRが前提なのか。

 しばらくすればまた涼しい夏が来ると思って我慢するのか。それとも、暑い夏に対処する術を身につけるのか。

 今までのルールややり方がうまく行かなくなったという「異常」を、私たちはいつ認めるのでしょうか。

【No.156】『なぜ非財務情報の開示なのか』

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【No.156】 2013年06月24日
『なぜ非財務情報の開示なのか』
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 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。昨日の日曜日はスーパームーン、月が地球に今年最も近づいたので、いつもより面積で14%、明るさで30%増しだったそうです。私は昼間のうちは見るつもり満々だったのですが、気がついたら雨が降り始めていました…。 

 さて、前回はCSRや持続可能性という課題に経営層を巻き込むために、海外のシンポジウムや、多様な専門家を招いてのダイアログを開催するといったやり方をご紹介しました。これに対して、その程度のことではとてもとても… 経営層は眼の前の数字のことしか興味ないのだからという厳しい現実を指摘するメールもいただきました。

 たしかにそうかもしれません。CSRや持続可能性のことを考えることが利益に直結することを示さない限りは、経営層の多くは振り向きもしないでしょう。私は本質的なCSRや持続可能性に取り組むことは、必ず利益を増やすことにもつながると思いますが、結果が出るまでにはかなり時間がかかり、また因果関係を明確に示すことは難しいことが多いのが難点です。これではやはり、短期的な利益にしか関心がない方には響かないでしょう。

 しかし収益に関係するもう一つの要素であるコストについて言えば、CSRや持続可能性ときわめて深く、そして直接的に関係していることがどんどん明らかになっています。

 わかりやすい例は調達コストです。メーカーであれば原材料、流通であれば商品の調達コストは、自社およびサプライチェーンにおけるCSRときわめて密接に関連しています。これについては、本号から連載を開始した「自然資本を測る〜サプライチェーンリスクの見える化〜」もどうぞご参照ください。

 そして、もしそのことを日本の経営層があまり気にしていないとしても、既にこのことを強く意識している海外の投資家、特に機関投資家は、サプライチェーンも含めた非財務的なリスクを気にしており、それに関わる情報開示を求めているのです。

 先月発表されたGRIの新しいサステナビリティ報告書のガイドラインであるG4でも、また現在、国際統合報告評議会(IIRC)がコンサルテーションを行っている統合報告フレームワークも、このような情報開示をどんどん深化させています。さらには、非財務情報の開示を義務づける国も、欧州の27ヶ国はもちろん、アメリカ、アジア、南米へと、つまり世界中に拡大しているのです。

 統合報告フレームワークは明確に、組織の成功は財務だけでなく、人的資本、自然資本などの多様な形態の資本に依存しており、自分たちが過去、現在および将来の価値創造のためにどのような資本に依存しているのか、またどのような影響を与えているかを報告するべきだとしています。これはまさに、日々どのようなCSRを積み重ね、その結果として自社の持続可能性をどのように高めようとしているかを報告することです。経営に組み込まなければ、説得力のある報告はとてもできないでしょう。

 あえて強く言えば、この世界的な趨勢にもっとも疎いのが、(少なくとも先進国の中では)日本の経営層かもしれません。世界の投資家から見放されないためにも、そもそも、事業活動自体を継続していくためにも、CSRや持続可能性を経営層が考えることは今や必須と言っていいでしょう。

 もしあなたが、自社の将来が今まで以上に明るいことを望むのであれば(普通そうでしょうが…)、あるいは逆に憂慮するのであれば、こうした動きを経営層に伝える努力をする意味はあると思うのですが、いかがでしょうか。

【No.155】『経営層を持続可能性に巻き込む方法』

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【No.155】 2013年06月10日
『経営層を持続可能性に巻き込む方法』
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 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。今回の新月は日曜日でしたので、月曜日の今日、旬のCSRの話題をお届けしたいと思います。

 さて、前回は企業が持続可能な方針を持つためにはリーダーである経営者が長期的な視点を持ち、10年先の将来を見据えてゴールを設定することが重要であるものの、多くの企業では、経営者は目の前の業績が気になり、むしろ短期的な視野に陥りがちであるという矛盾した状況についてお話ししました。

 そして、だからこそ、長期的な視点を持ち、また、CSRや持続可能性の重要性について自社の中でも一番よく理解しているはずのあなたが、経営層や全社を巻き込むように働きかけることが重要だということです。このことには、多くの読者の方から賛同のお返事をいただき、多くのCSR担当者がこの問題に悩んでいらっしゃることを改めて感じました。

 一方、他の国ではというと… 海外でCSR関係の大きなシンポジウムなどに参加するとまず気が付くのは、経営層が登壇しているケースが非常に多いことです。基調講演などはもちろんですし、場合によっては、かなりテクニカルな分科会でも経営層の方々を見かけることがあります。

 そしてこういうところで各社の経営層がするスピーチは、単なる活動報告ではなく、なぜ自分たちがこのような活動をするのか背景となる課題を説明し、そしてそれをどのように解決していくのかを述べ、またそうしたチャレンジに一緒に取り組みましょうと呼びかけるというものが多いようです。

 経営方針や目指している方向性が、そしてその人の考えがよくわかるスピーチが評価されるからです。判で押したような紋切り型の挨拶の原稿を読み上げたのでないのはもちろん、誰が話しても同じになるような数値を羅列するだけのものでもありません。

 日本の企業でも、本当はこうした機会に経営層や少なくともCSRの責任者の方が参加するだけでも、持続可能性について語ることがリーダーの仕事なのだということがよくわかっていただけると思います。出来ればそうしたところでお話をしていただくのが一番なのですが、まずは聞いていただくだけでもいいでしょう。

 どういう会合を選ぶかについては、やはり海外のものをお勧めします。海外は難しいのでどうしても国内でということであれば、海外からのゲストが多数参加するものがいいでしょう。ただしいずれの場合でも、同じ業界の方だけが集まるものはあまりお勧めしません。参加者の属性がなるべく多様な方がいいからです。

 しかし実際にはスケジュールの調整が難しく、なかなか経営層の方には社外の会合にはご出席いただけないという場合もあるでしょう。そのような場合には、社内に社外の専門家やステークホルダーをお招きしてダイアログを開催するというやり方もあります。

 そのようなダイアログでは、他のビジネスリーダーの考えを聞くことには難しいかもしれませんが、社外から専門家をお招きすれば、持続可能性という課題の重要性について経営層の方々に理解を深めていただくことには役立つはずです。

 そしてここでも重要なことは、なるべく多様な専門家をお招きすることです。ある特定の問題にだけ非常に詳しい専門家の方より、持続可能性に関わる個別の問題と自社の事業の関係性について大局的に語ってくださる方を選ぶのもポイントです。

 つまりは、内部だけでなんとかしようとするのではなく、「外部」をうまく利用すること、そして「多様性」を意識することがコツなのです。

 そして、このことは自分の課題を解決するためにも同じように役立ちます。一人で、あるいは部署内だけで悩むのではなく、多様な外部の方々に相談すれば、必ず解決の糸口が見つかるはずです。

 この話題、次回もさらに続けていきたいと思います。

【No.154】『自社に持続可能な方針を持たせるには?』

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【No.154】 2013年05月28日
『自社に持続可能な方針を持たせるには?』
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 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。先週末の土曜日が満月でした。私は出張でアムステルダムにいたのですが、運河にかかる橋から昇って来る、とても印象的な満月を見ました。

 前回書いたように欧州は規制好き(?)なようですが、今回の出張中にも、生物多様性のノーネットロスを義務化する議論が進んでいたり、非財務報告書の義務化(これは欧州には限りませんが…)など、ちょっと前までは「先進的」だったことを「常識化」しようとする動きがいろいろありました。

 こうした規制の内容についてはまた別の機会に譲るとして、今回は前回お約束したように、必要な規制を行政に求め、それを自らの競争力に利用するような骨太の方針を持つ企業になるためにはどうしたら良いかについてお話ししたいと思います。

 持続可能性を達成するためにあえて行政に規制を求めようという発想は、最低でも10年、できればもう少し先の将来を考えていないと出て来ません。そしてこれを考えるのは、リーダーがすべきことです。そういうリーダーがいなくては、長い航海を経て遠い目的地に安全に着くことはできません。

 問題なのは、たとえそうしたリーダーがいなくても、しばらくはなにごともなく進めるということです。海が穏やかな平時であれば、これまで目指してきた方向にただ船を進めるだけでも遭難することはありません。しかし、嵐が近づいてきたとき、別の海流が流れる海域に入ったときなどに初めて問題は顕在化しますが、それでは遅過ぎるのです。

 もしあなたが企業のリーダー、つまり経営者であれば話はわりと簡単です。しっかり将来を見据え、自分で方針を立てればいいのです。では、あなたが経営者ではない場合は、どうしたらいいのでしょうか。

 ここで問題になるのは、多くの企業で、経営者はその会社の中でもっとも年齢層が高い層だということです。多くの経験をもった方が経営にあたるということ自体はいいのですが、いかんせん、目指す目的地までの時間が違うのです。

 人間は普通、自分がその会社にいる間のことしか考えません。「自分がいる間だけ持てばいい」というつもりではなくても、その先は関与しようがないのですから仕方ありません。ですので、本来であればもっとも遠い将来までを考えなくてはいけない経営者が数年先のことまでしか考えず、新入社員が一番長く、40年先を考えることになるのです。実際には、そこまで遠い将来を考える新入社員の方は稀でしょうから、第一線で実務に携わっているあなたが、会社の中で一番問題意識を持っているかもしれません。

 つまり、今までのやり方では近い将来、あなたの会社の持続可能性が危うくなる。しかし、経営者の方はそのリスクに気付いていないか、あるいはそれは自分の任期が終わるより随分先の話だ、今は足元の数字だ、というのが現状なのです。

 これは何も企業だけの話ではありません。政治もまったく同じ構造です。自分たちの社会の将来をどうするかという問題を議論するのに、政治の世界でもやはりかなり高齢の世代が決定権を握っています。

 したがって私たちの目の前の課題は、いかに経営層をこのような長期的な課題に巻き込むかでしょう。もちろんそれが大変なことはわかりますが、放っておいても決してあなたの会社は持続可能な方針を持たないでしょう。多くの企業がそういう方針を持つようになるのは、規制ができたり、法律で義務化された後です。しかしそれでは、先頭グループの後塵を拝するだけで、競争力は持てないのです。いえ、そのくらいですめばいいのですが、もしかしたらそこまで会社がもたないかもしれません。

 「それはわかっている、どうやって巻き込めばいいのか?」ということについては次回以降に触れたいと思います。

 この記事を読んでいるあなたが、おそらく会社の中でもっとも良く「持続可能性」という長期的な課題の重要性に気付いていて、憂慮している。このことはおそらく間違いありません。ですから、持続可能であるための長期的なビジョンを持ち、そのためにあえて規制もツールとして使いことなすような方針を自社が持つためには、あなた自身がその立場にいることを自覚すること、経営層や全社を巻き込むように働きかけることが自分の役割であると考えること、すべてはここから始まるのです。

 今いる会社を持続可能にするか、それとも持続可能な会社に乗り換えるか。あなたの将来を持続可能にするためには、このどちらかしかあり得ません。とりあえず後者は考えないとすれば、やはりあなたが始めるしかないのです。

【No.153】『欧州は規制好き?』

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【No.153】 2013年05月10日
『欧州は規制好き?』
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 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。新月と共に、CSRに関わる旬の情報をお届けいたします。前回までしばらく水の話が続きました。今回からはいったん淡水の話とは離れ、持続可能性とCSRにまつわる話題を幅広く取り上げたいと思います。

 ウナギの資源量が激減していることが、最近は一般メディアでも報じられるのを見かけるようになりました。2月1日に環境省が、二ホンウナギを絶滅危惧種に指定したことが大きいのかもしれません。

 ただその内容はというと、ウナギの値段が高くなって食べられなくなるとか、絶滅危惧種に指定されたことで老舗の鰻屋さんが困惑しているとか、情緒的なものが多く、その原因や背景にまで深掘りして報道するメディアは少ないのが残念です。ましてや、今や二ホンウナギもヨーロッパウナギも稚魚が激減しているので、その代わりにアジアや北米の近縁種が「救世主」になると囃し立てる報道にいたっては、世界に恥をさらしているようなものです。私もウナギは好きですが、いえ好きだからこそ、これからもずっとウナギを食べ続けることができるように、今こそ持続可能な漁獲を目指す世論形成をしてもらいたいと思います。

 一方、欧州連合(EU)は漁業をより持続可能なものにするために、大きく舵を切っています。EU議会は今年2月6日、共通漁業政策(CFP)を改訂することを決めました。これは持続可能な水産資源が維持できるレベルまで漁獲を減らし、捕獲したあらゆる水産物の海上投棄を禁止し、また科学的データに基づいた長期計画によって行動することなどを各国に求めるもので、2014年から実施される予定です。消費者が魚を食べ続けることができるように、そして漁業関係者がこの産業をを続けることができるように、必要な政策をきちんと考えているように思えます。

 さて、水産とは別に最近欧州ではもうひとつ興味深いことが進行しています。ハチの大量失踪(蜂群崩壊症候群=CCD)の原因と目されるネオニコチノイドの一種である農薬3種類の使用を、12月1日から2年間にわたって禁止することに向けて準備を進めることが4月29日に欧州委員会から発表されたのです。今年1月に欧州食品安全機関(EFSA)がこれらの農薬がハチへの危険性が認められるとする報告書をまとめたこともありますが、そもそも欧州のいくつかの国ではすでにネオニコチノイドの使用を禁止しており、その動きがEU全域に拡大するということです。

 日本でもかねてより養蜂家や一部の農家からネオニコチノイドの安全性に関する疑問の声が上がっており、また今年になってから金沢大の研究グループがネオニコチノイドがCCDの原因である可能性が高いことを報告していますが、規制の議論は進んでいないようです。

 漁業についても、ネオニコチノイドの使用についても、利害関係者からの反対の声は当然あります。しかし、漁業や農業という私たちの生存に欠かせない重要な産業の持続可能性を考えると、予防原則の立場からも、こうした政策は歓迎すべきでしょう。

 企業からすれば、短期的には不便な点もあるとは思いますが、長期的にはまず間違いなく必要な政策であり、流れです。いたずらに反対したり先送りするのではなく、こうした変化が日本にも及ぶことを前提に今から行動を起こすことが重要なように思います。

 同様の動きは環境やCSRの様々な課題で見られます。規制があるからないからということではなく、事業や社会を持続するためには何が必要なのかを見極め、むしろそのために必要な規制を求めることこそ、CSR先進企業にとっては差別化につながるのではないでしょうか。

 では企業としてそうした積極的な対応をするためにはどうしたら良いのか? 次回はそのことについてお話ししたいと思います。

【No.152】『雨を収穫する』

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【No.152】 2013年04月26日
『雨を収穫する』
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 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。満月が巡って来ましたので、それに合わせて旬のCSR関連の話題をお届けいたします。

 前回は、最近、降水の規模が拡大しかつ舗装率も上昇したことによって、下水へ、そして海へとそのまま放流される雨水の割合が増え、社会的コストも増大しているということをご紹介しました。

 これについて、本来、雨水は下水に入り込まない設計になっているはずとのご指摘をいただきました。たしかにその通りで、正確に言えば、都市部の古くからある下水道にはまだ合流式の下水道が多く残っているということなのですが、ちょっと端折った説明で失礼しました。

 いずれにしろ、舗装率が上がった都市では、雨水はうまく地下に浸透せず、生きものが雨水を利用できないだけでなく、降水量が多いとそれが溢れたり、その対策のために社会コストが嵩んでしまうことは確かです。

 この問題を解決するためには、雨がもっと地下に浸透するようにすればいいのですが、具体的にはどうしたらいいのでしょうか。国や自治体が進めているのは、雨水浸透ますや浸透トレンチ、透水性舗装などの雨水浸透施設の普及です。そのための補助金を支給している自治体もあります。

 しかし、地表を舗装し、コンクリート管の水路のままでは見た目もよくありませんし、生きものにも優しいとは言えません。お勧めしたいのは、やはり緑を使って地下浸透を高める方法です。

 たとえば駐車場などであれば、透水性舗装ではなく、芝とブロックを使ったグラスパーキング(芝生化駐車場)、歩道であればウッドチップ舗装などが考えられます。水路も三面コンクリート張りにするのではなく、積み石を使ったり、水路の緑化などがあります。こうした手法を使えば、雨水がスムーズに地下浸透するだけでなく、見た目もきれいですし、緑化による蒸散の効果で気温の上昇を抑える効果もあります。そして適切な緑化を行うことで、もちろん生物多様性の保全効果もあります。

 さらにぜひ試していただきたいのが、レインガーデン(雨庭)です。これは一見普通の花壇や植栽のように見えますが、実は全体が浅い窪地になっており、雨が降るとこの中に一時的に水が溜るのです。そのお蔭で、歩道や他の場所が水浸しになることはありません。溜った水は適当な時間、普通は一日ぐらいの間に、地下に浸透したり、蒸発したり、水路でつながった池に流れ込んだりするように設計されています。上手に設計されたレインガーデンは、立体的な構造があるために普通の花壇よりも魅力的にすら見えます。

 水の地下浸透だけでなく、貯蓄と再利用まで組み合わせた活動が、淡水が貴重な国や地域では既にかなり行われています。海外で環境に配慮した建物や施設を見学すると、たいていどこでもrainwater harvestingについての説明があります。貴重な淡水資源をそのまま遠くに放水してしまうなんて、とてももったいないことなのです。日本でも一部にこうした動きもあり、雨水貯留という素っ気ない言葉より、雨水のハーベスト(収穫・刈り入れ)という言葉に、水を恵みと感謝する人々の気持ちが込められているように感じるのは情緒的過ぎるでしょうか。

 このような取組みは、工場、オフィス、自宅どこでも可能です。ちょっとした工夫をすることで、気候変動の対応策になるだけでなく、淡水資源の保全や、さらには生物多様性の保全にもつながる一石三鳥です。皆さんも、導入を考えてみませんか。


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