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第10回『企業に求められる情報開示の在り方』

| 2015/05/22

自然資本「超」入門

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第10回 2013年11月18日
『企業に求められる情報開示の在り方』
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前回は、金融機関が投融資先の企業とそのサプライチェーンの環境リスクに関心を高めていることを、金融機関による「自然資本宣言」を例に紹介しました。これまで、環境リスクが経営に与える影響は、ごく一部の金融機関でしか評価されていませんでした。したがって、多くの金融機関が企業の環境リスクを評価するようになるためには、これまでとは違ったかたちでの情報開示が必要になります。

それでは、企業はこれからどのような情報開示を求められるようになるのでしょうか? 今回はその答えを考えるために、情報開示の新しい動きとして注目されている、カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)と、国際統合報告評議会(IIRC:International Integrated Reporting Council)が、どのようなことを求めているかを見てみましょう。

まず、CDPですが、気候変動(温室効果ガスの排出)に関する質問書(2013年)には、当然ながら温室効果ガスの排出量やその変化量に関する質問が並んでいます。しかし、それ以外にも、気候変動によって事業が受ける影響の大きさや、気候変動によるリスクやチャンスが現実化する可能性、リスクやチャンスを管理するために必要な費用、リスクやチャンスの適切な管理を行わなかった場合の財務的影響など、広範な質問が含まれているのです。
つまり、いま環境報告書で開示されているような温室効果ガスの排出量や削減量だけではなく、気候変動に対する取組みが経営上どのような意味を持つかを示すことが求められているのです。

IIRCの場合はどうでしょうか。IIRCは2013年末にフレームワークの公開を目指し、今年の4月にその草案を公開しました。草案では、統合報告書の基本原則の1つとして、企業が経済、社会、そして環境に関連して、どのような価値を生み出そうとしているのか、その戦略と取組みを報告する必要があるとしています。またそのために、金融資本だけではなく、人的資本や社会的資本、そして、これらの基盤となる自然資本まで、多くの資本を対象に、企業がこれらの資本をどれだけ使用し、どれだけの新しい資本を生み出したのか(もしくは生み出そうとしているのか)の説明を求めているのです。

「統合報告フレームワーク」は、その名のとおり、統合報告作成のための枠組みを示した文書で、記載内容について具体的な基準を示しているわけではありません。ですから、どのような情報をどのように報告するかは一律には言えません。しかし、環境に関して言えば、環境に関する取組みを企業の中・長期的な事業戦略と関連づけて報告することが必要になるのは明らかです。今までのように、CO2の排出量や、水や原材料の使用量をどれだけ削減したかを報告するだけでは不十分なのです。

つまり、CDPの質問書や、IIRCの統合報告フレームワークが求めているのは、これまでの環境報告書にあった、CO2の排出量の削減状況や、植林活動などのような地域環境への貢献についてのレポートではないのです。もちろん、これらの取組み自体は重要なのですが、いまもっとも開示が必要なのは、環境についての取組みがどれだけ経営に生かされているのか、言い換えれば、取組みを通してその企業がどれだけ環境リスクを管理し、ビジネスチャンスを創出できているかを評価できる情報なのです。

このような情報開示を、今すぐに行うことは難しいかもしれません。しかし、CDPとIIRCは覚書を結んで、環境情報の開示に関するガイドラインや基準の開発を、共同で着々と進めています。このような動きが進むにつれて、企業は、ますます上記のような観点で報告書を作成せざるを得なくなるでしょう。

環境に関する取組みを経営に結びつけるためには、また説明をするためには、環境と経営とで共通の言語を用いるのが最も理にかなったやり方ですが、そのための1つの有力な方法として、事業による環境への影響を経済的価値で評価することがあります。IIRCの「統合報告フレームワーク」の中で「資本」という言葉が使われているのもそのためですし、前回の連載で紹介した、金融機関による「自然資本宣言」は、このことを実現させるための仕組みの構築を目指しているのだと言っていいでしょう。

このように、自然資本の価値を国家勘定に組み込もうとする国際的な動向(第8回参照)と平行して、企業会計に自然資本の価値を組み込もうとする動きも進んでいます。この新しい流れをリードする存在になるのか、それとも様子を見ながら取り組みを進めるのか、それはそれぞれの企業の判断と戦略によるでしょう。

しかし、少なくともこの流れに取り残されることはあってはなりません。そのために、まずは具体的にどのような取組みが求められているのかを確認してみることをお勧めいたします。CDPの質問書は、CDPのウェブサイトからダウンロードすることが出来ます(※)。日本語に訳されていますし、ページ数も20ページにも満たないので、気軽に読んでみるといいでしょう。

自然資本コストの定量化は、まだ一部の先進的な企業でしか行われていません。しかし、国際機関や各国政府が自然資本を評価するための準備を進め、投資家が情報開示を求めている以上、取り組む企業は今後ますます増えるでしょう。

大切なことは、報告しなければいけない情報が増えてしまう、大変だ、と消極的になるのではなく、「自然資本を測る」という新しいリスク管理の方法を使いこなして、これまで管理できなかったサプライチェーン上のリスクにもしっかり対応し、事業をより持続可能なものにしようと、ポジティブに捉えることです。この連載が、読者の皆さんのポジティブな考え方に役立つことを願っています。

※:CDPの質問書はこちらからダウンロードできます。

自然資本「超」入門

 

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