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第8回『国家勘定への自然資本の組込み』

| 2015/05/22

自然資本「超」入門

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第8回 2013年10月7日
『国家勘定への自然資本の組込み』
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世界では、毎年1,300万ヘクタールの森林が消失していると言われています。これはおおよそ日本の国土の1/3、森林面積の1/2にあたります。毎年これだけ広大な森林が失われ続けているのです。

森林は様々な生態系サービス(自然のめぐみ)を私たちに提供しており、林野庁も日本の森林が持つ価値を試算しています。そのうちの比較的経済的価値に換算しやすい二酸化炭素の吸収、土壌の表面浸食防止、土石流等の表層崩壊防止、洪水緩和、水資源貯留、水質浄化、保健・レクリエーションなどのサービスだけでも、年間約70兆円の価値があると評価されています(※1)。日本の森林の価値を世界の森林に当てはめるのは少々乱暴ですが、もし、世界で失われる森林と日本の森林が同じ価値を持っていると仮定すると、世界では毎年、森林破壊だけで少なくとも35兆円の価値が失われていることになります。もちろん、評価に含まれていない森林の価値を加えると、金額はさらに大きくなるでしょう。

正確な金額はともかく、森林破壊によって、私たちは知らず知らずのうちに、毎年莫大な損失を出し続けているのは明らかです。そしてなかなかこれを止めることが出来ずにいます。しかし、もし森林の価値が経済的価値として表現され、会計簿に計上されるようになったとしたらどうでしょうか? このような損失は、決して放置されることはないのではないでしょう。

とはいえ、自然の価値が会計に組み込まれるなんてことはそうそうありえないと思われる方も多いかもしれません。ところが、この数年の間に、自然の価値を経済的価値で評価する、別の言葉に言い換えれば、自然資本を定量的に測る試みが世界で盛んになってきています。

この動きに大きく貢献したのが、2009年〜2010年にかけて発表されたTEEB(The Economics of Ecosystems and Biodiversity:生態系および生物多様性の経済学)の研究成果でしょう。TEEBの報告書では、生態系サービスを経済的価値で評価した研究成果が取りまとめられるとともに、生物多様性や生態系の保全が社会や企業活動の持続可能性のために必要であり、またそうすることが得策であることが示されました。

TEEBの総合報告書が発表されたのは、10回目の生物多様性条約締約国会議、いわゆるCOP10の会場でした。COP10が2010年の秋に名古屋で行われたことは、皆さんも記憶されていることと思います。そして、このCOP10で、生物多様性の保全に関する2020年までの目標である「愛知目標」が採択されましたが、この目標の中で、国家勘定の中に生物多様性の価値(つまり自然資本)を組み込むことが掲げられています。

 

【愛知目標2】
「遅くとも2020年までに、生物多様性の価値が、国と地方の開発・貧困 解消のための戦略及び計画プロセスに統合され、適切な場合には国家勘定、また報告制度に組み込まれている。」(環境省仮訳)

 

COP10では、この目標に呼応するように、世界銀行によるプロジェクト「WAVES(Wealth Accounting and the Valuation of Ecosystem Services)」が開始されました。このプロジェクトでは、コスタリカ、コロンビア、フィリピン、ボツワナ、マダガスカルの5ヶ国で、実際に自然資本の価値を国家勘定に組込むための体制整備が進められています。また、この5ヶ国以外にも、イギリス、オーストラリア、カナダ、オランダ、グルジア、ドイツ、ノルウェーなどでも、自然資本を経済的価値で評価する取組みが進められています。中でも、特に取組みが進んでいるのがイギリスです。イギリス政府は2010年に国内の自然資本を算出し、報告書としてまとめました。さらには、2020年までに自然資本を国家勘定に組み込むことを宣言しています。

自然資本の会計への組込みは、この他にも多くの国や企業によって支持されています。2012年6月にブラジルで開催されたリオ+20では、世界銀行が呼びかけた「50:50イニシアティブ」において、自然資本を会計に組み入れることに賛同しこれを推進することを表明する「自然資本会計宣言(Communiqué on Natural Capital Accounting)」に、68の国と90の企業が署名しました。世界銀行は、他の国連機関とともに、このような国や企業の意志をスムーズに実行に移せるように、自然資本の価値を国家勘定に組み込むための方法論やツールの開発を進めています。

各国が自国の自然資本を経済的価値に換算し、それを自分たちの富として国家勘定に計上するようになると、企業活動は大きな影響を受けることになります。自然資本を利用したり損ねたりすれば、それへの対価を求められることになるかもしれません。つまり、今までただ同然で利用してきた生態系サービス(自然のめぐみ)に対する費用の支払いや、環境破壊など自然資本の価値を損なうような活動に対する費用の負担を、今以上に求められるようになることが考えられます。

このような社会では、今までのやり方でビジネスを継続させるのは非常に困難です。企業活動はあまりにも大きな負荷を環境に与えているからです。Trucostの試算では、世界の一次産業と一部の加工業による自然資本コストは1年間で約730兆円にもなります(※2)。これだけのコストを企業が負担するのは不可能でしょう。したがって、企業は、事業による環境負荷を低減し、このコストを真剣に削減しなければならなくなるでしょう。逆に、コストを削減できた企業は、他の競合に対して大きなアドバンテージを得ることになるでしょう。

愛知ターゲットの目標年である2020年に向けて、これから自然資本を国家勘定に計上するための様々な社会的制度の整備が進められるでしょう。2020年まであと7年です。あなたの会社はこのような社会への対応の準備を始めているでしょうか?

さて、今回ご紹介した自然資本の経済的価値評価の動向は、カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)や、今年の5月に新しい基準を公開したGRI、そして、今年末にその作成のためのフレームワークが発表される予定の統合報告書といった、企業の非財務情報の公開を押し進める流れと密接な関係があります。このことについては、次回の連載で詳しく述べたいと思います。

※1:林野庁の試算は森林の持つ機能の一部に限られています。
  木材や食料の生産、生物多様性の保全などといった機能は評価されていません。
※2:出典
“Natural Capital at Risk: the Top 100 Ecternalities of Business” TEEB for Business Coalition (2013)

自然資本「超」入門

 

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