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第7回『水の真のコスト』

| 2015/05/22

自然資本「超」入門

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第7回 2013年9月20日
『水の真のコスト』
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皆さんの会社では、水の問題にどのように取り組まれているでしょうか? 今夏は水不足が心配される地域もありましたが、基本的に日本には水は豊富にあるという認識があるようで、企業の方に訊いても、水問題に対して強い危機感を持って取り組んでいる企業はそれ程多くないようです。水不足の問題は、国外を見れば深刻な場所もあることは漠然とわかっていても、それを自社の問題として最重要課題と位置づけるには至っていないということでしょう。

しかし、国際的にはそうではありません。例えば、世界経済フォーラムの報告書(※1)では、世界の経営者が懸念するリスクのうち、水不足はそれが起きた時にビジネスに大きな影響を与えるリスクの4番目に、そして将来起こりうる可能性が高いリスクの2番目に挙げられています。水不足は、ビジネスにとって最も重要な問題の1つとして認識されているのです。世界の経営者が水不足に対してそこまで強い懸念を持っていることは、2030年には世界全体での水の需要量が供給量を4割上回るといった研究結果(※2)や、2025年には水不足によって深刻な影響を受ける人が18億人になるといった報告(※3)を考えればもっともです。

近い将来、必要な水を確保することは、事業の持続可能性にとって非常に大きな課題になるのです。しかも、事業を継続するためには、自社だけではなくサプライチェーン全体で水を確保する必要があります。なぜなら、本連載の第2回で紹介したPumaの例のように、水の使用量が多いプロセスが自社内にあるとは限らず、むしろサプライチェーンの上流にあることが少なくないからです。サプライチェーンのどこかで水不足のために操業が中断されたり、製造コストが跳ね上がったりすれば、これまでのように製品を製造することはできなくなってしまいます。

このように考えると、サプライチェーンが世界中に延びた現在、日本企業も、水不足の問題と無関係とは言えません。むしろ、サプライチェーン上の水不足の問題を認識していない分、リスクは大きいのかもしれません。

それでは、このようなリスクに企業はどのように対処していけば良いでしょうか? その1つの方法が、サプライチェーン上の自然資本コスト(※4)を測ることです。このことにより、そもそも事業にとって水リスクが存在するのか、存在するとすればサプライチェーンのどこに、どの程度のリスクが潜んでいるかを知ることができます。リスクが明らかになれば、そのリスクに対して適切に行動を起こすことも可能です。

私たちは今、水を安価に大量に使用しています。水道料金としていくらかの費用がかかっても、とても払えない高価なものではありません。しかし、これは「水の真の価値」が反映されたものではないのです。

水はすべての生きものにとってなくてはならないものであり、私たちが毎日生活する上で頼っている自然のめぐみ(生態系サービス)を背後から支えています。「水の真の価値」には、こうした水の自然資本としての価値を含める必要があります。また、水の価値は本来、水が希少な地域では高く、水が豊富な地域では低くなるはずです。このようなことを計算に入れた「水の真の価値」を用いて「水の真のコスト」を算出することで、水リスクを定量的に表すことが可能です。つまり、水が比較的希少で、「水の真の価値」が高い場所で水を大量に使用することは、たとえ今はその場所で水を安価で使えていたとしても、「水の真のコスト」(=水の真の価値 × 水の使用量)は高い=水リスクが高い、ということになります。

このような考え方を利用すれば、様々な観点から水リスクを分析することができます。例えば、図1は、ある施設の建設プロジェクトの2つの計画案の正味現在価値を比較したものです。プロジェクトBでは、設備投資にかかる費用はプロジェクトAよりも安価ですが、将来的にかかる水の真のコストが大きいため、その分を差し引いた正味現在価値はプロジェクトAの方が大きくなることがわかります。つまり、建設時に節水設備を充実させる等の設備投資をすることによって削減できる将来的なコスト(=水リスク)を、経済的価値で評価することができるのです。このようなデータを利用することで、将来的な水リスクも考慮に入れて意思決定を行うことができるようになります。
 
 
(下図をクリックすると図が拡大されます)
Trucost_computer
図1:水の真のコストの活用例:プロジェクトの正味現在価値の比較
 
 
また、図2はいくつかの日用品製造業の水の真のコストを測定したものですが、その結果から、食料品製造業では水の真のコストが売上を超えてしまうことがわかります。つまり、今は収支に組み込まれていないコストがもし内部化された場合、収入よりも支出の方が多くなってしまうということです。この図からは食料品製造業はかなり大きな水リスクにさらされていることがわかります。また、食料品製造業ほどは大きくはありませんが、洗剤や化粧品産業も大きな水リスクをかかえていることがわかります。この図からはさらに、これらの水リスクがどのような産業に起因するのかがわかります。例えば「その他の食料品」であれば、穀物や油料種子栽培による水リスクが大きいことがわかります。
 
 
(下図をクリックすると図が拡大されます)
Trucost_computer
図2:日用品製造の水リスク
 
 
これらの例の他にも、農作物の生産地や鉱物の採掘地などで、原材料生産地の水リスクやサプライヤーの工場の水リスクを分析することも可能です。最近、様々な形で水の真のコストを測る企業が増えています。サプライチェーン全体で水リスクを把握し管理することが事業を継続するために必須だと先進的な企業は考えているのです。

さて、これまでの連載で、Trucostによる自然資本コストの測定例を紹介しながら、自然資本コストを測ることによってどのようなことがわかるのか、またそれが企業にとってどのように役に立つのかをお伝えしてきました。自然資本コストを測ることが、企業の持続可能性にとって重要であることが具体的におわかりいただけたのではないかと思います。

自然資本を測る(もしくは、自然の価値を測る)試みは、世界銀行やUNEPなどの国際機関や先進的な国や企業によっても進められています。次回の連載からは、自然資本の測定に関して、国際的にどのような動きがあるのかをご紹介していきますので、ご期待下さい。

 
(※1)World Economic Forum “Global Risks 2013” (2013)
(※2)McKinsey “The business opportunity in water conservation”,
    in McKinsey Quarterly (Dec. 2009)
(※3)FAO “Coping with water scarcity: challenge of the twenty first century” (2007)
(※4)自然資本コスト:経済活動が必要とした、もしくは開発や汚染によって損ねた自然資本の
    経済的価値のこと
(※5)図1、2はいずれもTrucostの記事が出典です。元記事はこちらからご覧になれます。
   “The Trucost of Water”
 
 

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