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第5回『食料品の真のコスト』

| 2015/05/22

自然資本「超」入門

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第5回 2013年8月21日
『食料品の真のコスト』
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最近、パン、牛乳、マヨネーズ等食料品の値上げの報道をよく見かけます。報道によると製造メーカーが製品を値上げするのは、円安や原材料価格の高騰がその主な理由のようです。「もう価格上昇の話は聞きたくない」と思われている方も多いと思います。そのような方には少し我慢していただかないといけませんが、今回は、製品の価格に自然資本コストがさらに上乗せされた場合の、食料品の“真のコスト”について考えてみたいと思います。

以前から紹介しているTrucostが、“The True Cost of Food”と題して、シリアル、フルーツジュース、チーズの自然資本コストを分析した結果をウェブで紹介しています。
(下図をクリックすると図が拡大されます)

食品の真のコストイラスト1
作成:Trucost

この図は、3つの食料品について、原材料の生産からスーパーの棚に陳列されるまでの自然資本コストを計算した結果です。計算の対象とされているのは、温室効果ガスの排出、水利用、土地及び水質の汚染、大気汚染、廃棄物の5項目です。

図の見方を簡単に説明します。例えば、左端のシリアルの結果を見ると、1箱のシリアルには0.55ドルの自然資本コストがかかると試算されています。小売価格(3.5ドル)にこの自然資本コストを加えた真のコストは4.05ドルとなります。また、自然資本コストの内訳を見ると、そのおよそ6割が水利用によるものであることがわかります。

それでは、Trucostによるこの分析結果からどのようなことがわかるでしょうか? まず言えることは、いずれの食料品でも水利用による自然資本コストがもっとも大きいということです。これは、原材料を生産する農地や果樹園において多くの水が利用されているためです。例えば、シリアルであれば小麦を栽培する際に大量の水を使用しますし、チーズであれば、牛の餌になるトウモロコシ等の穀物の栽培にたくさんの水を使います。

このことは、食料品の製造に関する様々な環境リスクの中でも、水を利用することによるリスクがもっとも重要であることを示しています。同じことは、他の食料品についてもいえるでしょう。もちろん、環境リスクを軽減するためにはその他の環境負荷(温室効果ガスの排出や土地及び水質汚染、大気汚染、廃棄物等)にも対処する必要がありますが、少なくとも水利用に関するリスクはないがしろにできないことがわかります。

この分析では、自然資本コストが価格に与える影響も試算されています。もし自然資本コストが小売価格に上乗されたとしたらどのくらい価格が上がるのか。チーズであれば18%も高くなるという結果です。同様に、シリアルは16%、フルーツジュースでは6%の上昇です。

もちろん、当然ながら、実際には同じような製品であっても、製造する企業やブランドによってその自然資本コストには大きな差があります。どこで生産された原材料を使用しているかによって自然資本コストが大きく異なるからです。例えば、フルーツジュースを例に考えると、ジュースの原材料であるオレンジなどの果物を水が豊富な地域で栽培した場合、水不足が懸念される地域で栽培した場合よりも自然資本コストは小さいでしょう。

それでは、両者にはどのくらいの差があるのでしょうか。水利用に関する自然資本コストが原材料の生産地域によってどの程度異なるのかを明らかにするために、Trucostはさらに各食料品の代表的な原材料のトップ10の生産地を比較分析しています。その結果が下の図です。
(下図をクリックすると図が拡大されます)

食品の真のコストイラスト2
作成:Trucost

分析の結果、シリアルに関しては、水利用に関する自然資本コストがもっとも大きい地域で生産された原材料を使用した場合と、もっとも小さい地域の原材料を使用した場合とでは、自然資本コストの合計値は54%も違いが生じることがわかりました(チーズでは14%、フルーツジュースでは8%)。つまり、原材料の生産地を選ぶことで、製品の製造にかかる自然資本コストを大幅に削減することができるのです。

このようなコストの差は今はまだ顕在化していないかもしれません。しかし、将来的にはどうでしょうか? 人口増加による水の需要の拡大や異常気象による渇水によって使用できる水が不足すると、十分な原材料が生産できなくなるかもしれません。これまで無料だった水が有料化されたり利用料金が値上がりするかもしれません。そうなれば当然、原材料の価格は上がるでしょう。自然資本コストは、まさにこのような将来的なリスクを経済的価値に換算して定量化しているのです。したがって、自然資本コストが小さい地域で生産される原材料を使用することは、原材料調達をさらに安定的かつ持続的にするために非常に重要なことなのです。

とはいえ、原材料の調達先をすぐに変更することは難しいかもしれません。しかし、生産地の状況を改善させることなら可能です。生産地の灌漑設備を改修して水の使用量を大幅に減らしたり、雨水を有効利用する設備を整えたり、場合によっては、使用できる水の量を増やすために水源地の森林を保全するといった取組みも考えられます。実際に、先進的な企業はこのような取り組みをすでに進めているのです。

いずれにしても、重要なことは、サプライチェーン上の環境リスクを自然資本コストという形で定量的に評価して“真のコスト”を見ることで、原材料の価格や品質といった従来の意思決定の要素に、環境リスクを組み込むことができるようになるということです。そのことによって、どのような原材料を使用するのが最適なのか、また、既存の原材料調達網をより強固なものにするためにどのような対策が必要なのかを、より包括的に判断することができるようになるのです。

 

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