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第3回『大きなリスクを見つけて対応する』

| 2015/05/22

自然資本「超」入門

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第3回 2013年7月23日
『大きなリスクを見つけて対応する』
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前回は、サプライチェーン上の環境リスクを管理するためには、必ずしもトレーサビリティを完全に確保する必要はない、むしろおおまかにでも全体像を掴むことの方が重要だということをお話ししました。その例としてPumaの環境損益計算書を挙げましたが、今回は、そのPumaの取組みについて詳しく見てみたいと思います。

Pumaの環境損益計算書における大きな発見の1つは、サプライチェーン全体を見渡すと、最上流、つまり原材料の生産地における自然資本コストが圧倒的に大きいということでした(連載第2回の記事はここからご覧下さい)。Pumaの製品には綿や牛皮が使われていますが、綿花の栽培や、牛の飼育、さらには牛の餌となる穀物の栽培のために、大量の水と広大な土地が使われているのがその理由です。

Pumaはこの結果を受けて、2020年までに牛皮を使用することをやめて他の素材に置き換えることを決定しました。牛皮の使用をやめれば、水の使用量を大幅に削減することが可能になります。そうすれば、世界的に懸念されている水不足の影響を軽減することができます。このように、サプライチェーン上の自然資本コストを測り、どこに大きな環境リスクがあるかを可視化することができれば、それを低減させるためにもっとも適切な対策をとることができるようになります。

Pumaはこのような決定をしただけではありません。それを着実に実行に移しています。この環境損益計算書の発表からおよそ1年半後、Pumaは製品レベルでも環境損益を計算してそれを公開しています(2012年10月)。Pumaは従来型のスエードの靴と新開発の生分解性の素材を使用した靴の自然資本コストを比較し、新製品の方が3割程コストが小さいとしています(Pumaによる報道発表)。

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このように、Pumaは牛皮に替わる新素材の開発をきわめて速やかに進め、しかもそれがライフサイクルを通してちゃんと環境負荷を減らしていることを定量的に確認しているのです。しかし、環境損益計算書のことを知らない業界関係者はなぜPumaがこのような商品を出したのか理解できなかったことでしょう。

Pumaはさらに、製品の製造に必要な自然資本コストを製品に表示することも考えているようです。今はまだそのアイデアを一部の関係者に伝えているだけですが、もしこれが実現すると、消費者の行動が大きく変化するかもしれません。

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製品と製品に付けられた自然資本コストのタグのイメージ

環境に配慮する取組みについて、それが事業にとってどのような重要性を持つのかを経営層や株主に対して説明することが難しいという声や、消費者には自分たちの環境保全の取組みの意義をなかなか理解してもらえないといった意見をよく聞きます。しかし、ご紹介したPumaの例のように環境リスクを定量化できたらどうでしょうか。しかもそれを経済的価値で表現できたら… 環境負荷を低減させることによって、どの程度経営上のリスクが回避できるかを見積もることができれば、その取組みが単に環境を保全するためのものではなく、経営的にも重要であることを説得力を持って説明できるようになるはずです。また、消費者に対しても価格という非常にわかりやすい単位で環境保全活動の効果アピールすることができるのではないでしょうか。しかし、そうした準備をしていないライバル企業は、すぐにはこの動きに対応できません。

ところで、Pumaはこれらの環境損益計算を行うために、綿や牛皮等、重要な原材料については原産地にまで遡るなど、時間と労力をかけています。しかし、最初の段階からそこまで厳密に調べる必要はありません。

Pumaの環境損益計算書を作成したTrucostは、業界毎の平均的な操業状況を元に、企業が公開している財務情報だけで下のようなプロファイル分析をすることができます。

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この図から、この企業にとって温室効果ガスの排出と水利用が大きな自然資本コスト(※)であることがわかります。また、自社による環境負荷は非常に限られており、その多くが二層目より上流(グラフの白い部分)にあることがわかります。

ただしこの分析は簡易的なものであり、個々の企業の独自の状況を反映したものではありません。あくまで業界平均値をもとに計算した結果です。しかし、このレベルの分析であっても、事業活動による環境負荷を、自社だけでなくサプライチェーンも含めて概観するのには十分役に立ちます。サプライチェーン上のどの段階で大きな環境負荷を与えているのかをざっくりとですが把握できるだけではなく、環境負荷が金銭という単一の単位(自然資本コスト)に換算されているため、例えば「温室効果ガスの排出」と「水利用」といった複数の環境負荷の大きさを直接比較することができます。そのため、サプライチェーン上のどこに大きなリスクが潜んでいるか、おおよその目星をつけることができるのです。まずはこのような簡易的な分析を行って、事業にとって本当に重要な環境リスクに的を絞ってさらに詳しい分析を行うこともできるでしょう。

前回からの2回にわたって、自然資本を測る取組みとしてPumaの例をご紹介してきましたが、同じような取組みは既に他の先進的な企業でも進められています。残念ながら、日本企業でこのような分析をしている企業はまだほとんどありません。レスポンスアビリティでは、Trucostのプロファイル分析を元にしたサプライチェーンのリスクを検討するための低価格のサービスも提供しています。この機会に、まずは最初の一歩を踏み出してみませんか。

※ 経済活動が必要とした、もしくは開発や汚染によって損ねた自然資本の経済的価値のこと

 

自然資本「超」入門

 
 

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