Response Ability Inc. Response Ability, Inc.

         

メールマガジン
サステナブル経営通信

サスナビ! (代表ブログ)

サステナ・ラボ(旧ブログ)

巻頭言集
自然資本を測る
サステナ・ラボ
CSR monthly

問い合わせ・資料請求

■最新の記事



このコーナーは、弊社の代表足立が「志」のソーシャル・ビジネス・マガジン「オルタナ」が発行するCSR担当者とCSR経営者のためのニュースレター「CSR monthly」に連載している「自然資本としての生物多様性」を転載したものです。
自然資本とは何か? なぜ企業が自然資本を意識した経営をすべきかについて、わかりやすく解説いたします。
原則として、毎週月曜日に記事を追加しています。
「CSR monthly」にご興味がおありの方は、こちらをご覧ください。

 

自然資本「超」入門

#13: 水源林を守る飲料メーカー

 
 前回は水を浄化したり供給したりする森林生態系の働き(生態系サービス)について、その働きが重要であるというだけではなく、経済的でもあることを述べた。そして今回は、企業が持続的に水を確保するためには、どのような活動や貢献が考えられるかを紹介したい。
 
 水への依存度が高いと考えられる企業、例えば飲料メーカーであれば、良質で豊富な水を利用し続けるためには、取水域の上流で森林生態系を保全するということがまず考えられる。
 
 日本でも大手ビールメーカーはいずれも、自社工場の取水源で森林保全活動を行っている。ただ多くの場合、水源林を自社で所有しているわけではないし、自社で使う水量を完全にカバーしているかどうかも不明だ。今のところこうした活動は、水に依存する事業を行う企業として、水源林の重要性を従業員や社会に対して啓発することが目的のように思われる。
 
 これに対し、日本コカ・コーラの場合には、同社のグローバルな方針に基づき、自分たちが使用する水の量と、涵養する水の量を完全に一致させるウォーター・ニュートラリティーを掲げている。同社の場合にも、必ずしも水源林を保有しているわけではないが、使用量と涵養量を一致させることにより、当座は水の不足や枯渇を心配することはしなくていいだろう。
 
 ここであえて「当座は」と限定したのは、今後の気候変動によっては、降水量や蒸散量が大きく変化するなどして、やはり水リスクに曝されてしまう危険性がないわけではないからだ。こうした心配から完全にフリーになるためには、気候変動の10年後、20年後の影響まで考えて、より十分な水源涵養を行う必要があるだろう。
 
 飲料メーカーの場合、もちろん水量だけでなく、水質が非常に重要になる。取水源が山奥にある場合には森林保全をしているだけでも水質はほぼ守ることができるであろうが、水源がもう少し開けた場所にある場合にはどうしたらいいだろうか。
 
 
水源を守るのにもお金が必要な時代に
 
 例えばネスレが発売するミネラルウォーターのヴィッテル(Vittel)は、フランス北東部の農業の盛んなヴィッテル村に水源を有している。フランスでは、ナチュラルミネラルウォーターを名乗るためには、採水した水をそのまま全く加工せずにボトル詰めしなくてはいけない。ところが1980年代、農家が林を切り拓いて耕地が増えたり、家畜の飼育数を増やしたりした結果、地下の水源が硝酸等で汚染されるようになってしまったのだ。
 
 しかし、もちろん農業そのものは違法ではないし、農薬を過剰に使っているというわけでもない。耕地を増やした結果、肥料からの窒素の流出や家畜が増え、し尿からの汚染が増えただけなのである。したがって、行政に取り締まりを求めるわけにもいかずに、ネスレは困ってしまった。
 
 何しろそのまま放っておけば、この水源で採掘したら水は飲料に適さなくなってしまうだろうし、フィルターでろ過すれば「ナチュラル」ではなくなってしまう。もちろん他の場所に移動すれば、もはやそれで「ヴィッテル」ではなくなってしまう。いずれにしろ、長い時間をかけて築き上げてきた世界的なブランドが失われる危機に直面したのである。
 
 結局ネスレは、この地域の農家に、畑を縮小し、失われた林を取り戻すために植林をし、また家畜の数を減らすことをお願いした。その結果減ってしまう収入を補填することはもちろん、水源の周囲の環境を維持するための作業をしてくれることに対して対価を支払うことを農家に約束し、説得したのだ。
 
 森で浄化されて湧き出る水は、かつてはタダであったが、今やその森を守ることに費用が発生するようになったのだ。しかしその費用を払っても、ビジネス的には十分に採算がとれたので、ネスレはそのような選択をしたのである。
 
 事業の持続可能性のために水源を守っているのは、飲料企業に限らない。ちょっと意外な産業が行っている場合もあるので、それは次回また紹介しよう。
 
 
(初出 2013年10月7日)

自然資本「超」入門