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このコーナーは、弊社の代表足立が「志」のソーシャル・ビジネス・マガジン「オルタナ」が発行するCSR担当者とCSR経営者のためのニュースレター「CSR monthly」に連載している「自然資本としての生物多様性」を転載したものです。
自然資本とは何か? なぜ企業が自然資本を意識した経営をすべきかについて、わかりやすく解説いたします。
原則として、毎週月曜日に記事を追加しています。
「CSR monthly」にご興味がおありの方は、こちらをご覧ください。

 

自然資本「超」入門

#12: 水を供給しているのは誰か

 
 一時期、日本の山林を外国資本、特に中国の資本が買い漁っているのではないかということが話題になった。そのときは、よく調べてみるとそれは単なる噂話に過ぎないということで落ち着いたようだ。
 
 しかし、やはり火のないところに煙は立たないようで、日本企業の名前で森を買い、そこから水を汲み上げて中国向けに輸出している業者などが実際にいるそうだ。2012年には、中国向けの輸出量だけで300万リットルを超えたとのことである。もちろんかなり高くつくはずだが、それでも中国の水では安心できないという人たちが、いくらでも買ってくれるのだそうだ。山紫水明の地に暮らす私たち日本人は、そのありがたさを忘れがちだが、安全でおいしい水というのは、とても重要な資源だ。何しろ私たち人間も含めて生き物は、水なしには生きていくことはできないのだ。
 
 その大切な水が、中国に限らず世界中でどんどん汚染されるようになり、一方で都市化や工業化、大規模な機械化農業の発達などにより、需要はますます増加している。水は重要であるだけでなく、貴重な資源にもなりつつあるのだ。
 
 しかし、供給できる水の量はほとんど増やすことはできない。2030年には世界の水需要の40%が不足するという恐ろしい予測もある。大変な水不足の時代が、もうそこまで近づいているのだ。件の中国の業者がそこまで先のことを考えているかどうかは知らないが、今のうちから水源の森を入手し囲いこむことは、かなり賢いことだと言えるだろう。
 
 というのも、きれいな水を作り、循環させているのは、まさに森林、湿地などの生態系だからだ。水源の森というのは単にそこに川の源があるということではなく、健全な森があることが重要なのだ。森があることで降水量が増え、降った雨を森林の土壌が涵養し、浄化するからである。
 
 
水を浄化するのに効率的な方法とは
 
 いや、そんなことなら何も森に依存しなくても、ダムと浄水場を作ればいいではないか。そうすれば、小さな面積で効率よくきれいな水を供給することができる。そう思われるかもしれない。
 
 しかし、ニューヨーク市で新しい浄水施設を作る計画が持ち上がったときに試算してみたところ、浄水施設を作るのには60億ドル、管理費用が10年間で30億ドル、合計90億ドルかかるのに対して、農場から河川への廃棄物や養分の流入を防止するのなら、土地所有者に10億ドルを支払うだけで済むことがわかった。もちろんニューヨーク市は、後者を選んだ。
 
 この事例は非常に示唆的だ。きれいな水を供給するということに関して、森林などの生態系は浄水施設の機能を肩代わりできるばかりか、はるかに経済的なのだ。しかも、浄水施設には浄水施設としての機能しかなく、大量のエネルギー使ったり、建設や操業にあたって環境に大きな悪影響を与えてしまう。しかし、生態系を保全すれば、それは水を浄化するだけでなく、それ以外にも私たちに様々な機能を提供してくれる。どちらを優先するのが合理的か、誰でも分かるだろう。
 
 こうした事実に、飲料メーカーも次第に気が付いてきたようだ。自社の工場の水源を確認し、さらにはその水源林の将来的なリスクについて調査をしたり、水源林の保全活動をするところも増えている。それでも、自社が依存している水源林をすべて保全しているところはまだないようだし、ましてや自社で買い取ったという話は聞かない。以前に比べればかなり進歩はしているが、やはり日本人にとって、「水と安全はタダ」ということなのだろう。
 
 もちろん水源林を大切に保全すべきなのは、飲料メーカーに限らない。農業も水がなければ始まらないし、一般のメーカーでも製造プロセスで大量の水が必要なところは多いだろう。さらには、水力発電だって、水がなければ行えないのだ。今ふんだんに使えている水が、もし使えなくなってしまったらどうするのか。それでも問題なく事業を継続できるという企業の方が少ないのではないだろうか。
 
 それでは、実際に企業は水を確保するためにどのような活動や貢献ができるのだろうか。それについては次回、詳しく紹介したい。
 
 
(初出 2013年9月5日)

自然資本「超」入門