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このコーナーは、弊社の代表足立が「志」のソーシャル・ビジネス・マガジン「オルタナ」が発行するCSR担当者とCSR経営者のためのニュースレター「CSR monthly」に連載している「自然資本としての生物多様性」を転載したものです。
自然資本とは何か? なぜ企業が自然資本を意識した経営をすべきかについて、わかりやすく解説いたします。
原則として、毎週月曜日に記事を追加しています。
「CSR monthly」にご興味がおありの方は、こちらをご覧ください。

 

自然資本「超」入門

#11: 生態系サービスに完全に依存する旅行業

 
 前回は、海外では広く実施されている生物多様性オフセットについて、日本企業も次第に意識せざるを得ない状況となりつつあることを紹介した。
 
 そして、日本企業が気付いていようがいまいが、海外では、生物多様性を意識しながら事業をしているセクターがたくさんある。今回はそうしたセクターの一つである旅行関連業を取り上げたいと思う。
 
 最近は、自然環境を中心に地域の文化や歴史を対象とするエコツアー、もしくはエコツーリズムと呼ばれる旅行形態が日本でも増えてきた。エコツアーの場合には、その地域の自然や生物そのものが旅行の目的であるので、まさに地域の生物多様性と生態系サービス、特にその文化的サービスに大きく依存している産業と言っていいだろう。
 
 エコツーリズムだけではない。私たちが海や山に旅行へ行くのは、豊かな自然が作り出す美しい景観と食を含めたその地域に独特の文化を求めてのことであろう。それぞれの地域に固有の美しい景観や独自の文化や食が存在するのは、その地域ならではの生物多様性があるからに他ならない。
 
 つまり、都市部を目的地とした旅行を除けば、ほとんどすべての旅行はその地域の生物多様性と生態系サービスがあってこそ成り立っているのであり、旅館、ホテル、ツアーガイドなどその地域の産業はもちろん、目的地まで旅行者を輸送する鉄道や航空などの運輸業なども、生物多様性に大きく依存した産業と言える。
 
 ところが、日本国内に関して言えば、旅行関連業が生物多様性に配慮して事業を行っているという話はあまり聞かない。もちろん、いくつかの特定の地域で熱心な活動が行われている場合や、例えばゴミ問題などについて最低限の配慮をしている場合はある。しかし、業界全体で、あるいは業界を代表する大企業が、生物多様性という課題に真剣に取り組んでいるという話を、少なくとも私は知らない。
 
 これは随分不思議な話で、自分たちの事業の存在基盤そのものになぜこんなに無関心でいられるのか、理解に苦しむ。生物多様性関連の国際会議に出ると、海外では必ず登場するのが資源開発業と旅行業なのだ。そして実際に海外のリゾートなどでは、景観に配慮した建設設計に始まり、操業上の環境負荷の低減、野生生物の保全、地域社会の巻き込み、さらには顧客への啓発や環境教育まで、実に多くの取り組みを行っている。そうした取り組みがリゾートの評価を高めることはもちろんだが、そうやって自分たちの事業の持続可能性を高めることを図っているのだ。
 
 
まだまだの国内観光業
 
 一方、国内の観光地はどうかと言えば、せっかく自然の美しい地域を訪れても、大音量で音楽が流れ、ケバケバしい看板や幟が立ち並び、自家用車で直接乗り付けた大量の観光客は、お目当ての場所だかモノだかをチラッと見るとさっさと帰って行く。とてもその地域の生物や生態系に配慮しているようには思えない。訪問者の数が減るのは困るからと、入山規制や保全のための料金の徴収に反対している関係者を見るたびに、ガチョウと黄金の卵の寓話を思い出すのは私だけだろうか。
 
 個別の企業が無配慮な例もいまだ多い。自然の豊かな地域を開発して大規模なリゾートホテルを建て、絶滅が危惧される動植物を見せ物にするなんちゃって「エコツアー」を企画する。いまだそんな事例すらあるのだ。これではエコツアーが生物多様性を「収奪している」と批判されても反論できないだろう。
 
 私は旅行関連業を否定しようと思うわけではまったくない。むしろ逆で、自然や文化を楽しむ旅行業が盛んになることは、私たちの社会の豊かさを示す重要な指標であると思っている。だからこそ、旅行関連業は自らの存在基盤である生物多様性の保全に十分に注力し、訪れる人々がより豊かな生態系サービスを享受できるようにし、産業全体が持続可能になることを目指してもらいたいと願うのだ。そこにはとても大きなビジネスチャンスがあるのだから。
 
 
(初出 2013年8月5日)

自然資本「超」入門