Response Ability Inc. Response Ability, Inc.

         

メールマガジン
サステナブル経営通信

サスナビ! (代表ブログ)

サステナ・ラボ(旧ブログ)

巻頭言集
自然資本を測る
サステナ・ラボ
CSR monthly

問い合わせ・資料請求

■最新の記事



このコーナーは、弊社の代表足立が「志」のソーシャル・ビジネス・マガジン「オルタナ」が発行するCSR担当者とCSR経営者のためのニュースレター「CSR monthly」に連載している「自然資本としての生物多様性」を転載したものです。
自然資本とは何か? なぜ企業が自然資本を意識した経営をすべきかについて、わかりやすく解説いたします。
原則として、毎週月曜日に記事を追加しています。
「CSR monthly」にご興味がおありの方は、こちらをご覧ください。

 

自然資本「超」入門

#08: 食品産業・農業が依存する生態系サービス

 
 これまで5回にわたって、4種類の生態系サービスについて詳しく見てきた。これらの生態系サービスは企業活動を可能にするフローであり、その生態系サービスを生みだすストックが生物多様性=自然資本である。
 
 5回の話で自然資本の重要性について読者の方々の理解が深まったようであれば幸いだが、一番気になるのはやはり、自社の事業活動とどのように関係があるのか、ということだろう。つまり、自社の事業活動がどのような自然資本が生みだす生態系サービスに依存しているかがわかれば、特にどの生態系や生物多様性を大切にしたら良いかもわかり、事業活動における配慮や保全の優先順位が付けやすくなるのではないだろうか。
 
 そこでこれから何回かに分けて、業種ごとにどのような生態系サービスが重要なのか、またその生態系サービスを維持するためにはどのような自然資本をどう保全していけばいいのかを考えたいと思う。生態系サービスとのかかわりが大きいと考えられる業種から始めていくが、ぜひこの業種について取り上げて欲しいというリクエストがあれば、お知らせいただきたい。
 
 まずもっともわかりやすいのは、食品産業だろう。というのも、私たち人間が食べるものは、ほとんどすべてが自然の恵みだからである。もちろん今では野山で採集したものを食べる機会は稀になっている。それでもキノコや山菜、ジビエ(野生鳥獣)など、生態系そのものが直接提供してくれる食材も多い。
 
 さらに水産物に眼を転じれば、すでに世界の水産物の半分は養殖から得られるものとなっているとは言え、私たちは天然モノの美味しさを高く評価し、またそれが豊かな海や川から得られることを知っており、美味しい魚を食べに、そうした生態系が残る場所へわざわざ足を伸ばすほどだ。
 
 つまり、こうした天然の水産物について言えば、その高い質と豊富な収穫を可能にするのは生態系の豊かさであり、そのためには資源を捕獲し過ぎないようにしたり、周囲の生態系も含めて保全することが必要なことは誰もが理解しているのだ。
 
 宮城県気仙沼市の畠山重篤さんたちが始めた「森は海の恋人運動」は、牡蛎の養殖をしている湾に流れ込む川の上流で木を植えて森を育てることにより、一時は赤潮で壊滅的になった海が見事に再生し、豊かな海とその幸を取り戻した例として、今や全国的に知られている。
 
 実は、漁業者が海岸近くの森林を守る習慣は古くから各地であり、森林法ではこれを「魚つき保安林」と指定して保護している。海外では熱帯域の海岸林であるマングローブが、「魚の揺りかご」として大切にされている例もある。
 
 一方、農業は自然の中ではなく、人工的に管理された生態系で行われる産業であるが、やはり生態系サービスに大きく依存している。
 
 
農業に必要なのは、人間が与える肥料ではない
 
 農業にとってもっとも重要なのは肥沃な土だが、それを作るのは人間が与える肥料ではない。土壌中の微生物や小動物が活動してこそ良い土が作られ、維持される。したがって、そうした微生物を殺してしまうような農薬を使えば、短期的には収穫量が上がることがあっても、長期的には生産性は著しく落ちてしまうだろう。
 
 また、より美味しく、実の大きな品種を作るため、人間は長い時間をかけて作物を改良してきた。そのために重要なのが遺伝子の多様性である。遺伝的に同じ種子しかなければ、そのような品種改良は不可能だ。また、つい最近までは固定種と呼ばれる、その地域の気候風土にあった在来種が多く存在していた。種苗会社による開発と独占の結果、こうした多様性が失われていることは、将来の農業に、ひいては私たちの食生活に暗い蔭を投げかけるかもしれない。
 
 最近では、地域の生態系と共存するような自然農法、有機農法などを見直す動きも広がっている。短期的な生産性よりも、長期間での安定性、確実性に対する理解が少しずつ広がっているということかもしれない。
 
 
(初出 2013年5月6日)

自然資本「超」入門