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このコーナーは、弊社の代表足立が「志」のソーシャル・ビジネス・マガジン「オルタナ」が発行するCSR担当者とCSR経営者のためのニュースレター「CSR monthly」に連載している「自然資本としての生物多様性」を転載したものです。
自然資本とは何か? なぜ企業が自然資本を意識した経営をすべきかについて、わかりやすく解説いたします。
原則として、毎週月曜日に記事を追加しています。
「CSR monthly」にご興味がおありの方は、こちらをご覧ください。

 

自然資本「超」入門

#04: 見えないけれど大切な「調整サービス」

 
 前回は供給サービスと呼ばれる生態系サービスについて詳しく説明した。供給サービスは、私たちの日々の生活や企業活動に必要な物質を提供するので、具体的でわかりやすい。その物質に対して私たちはこれまでも対価を払ってきたので、その価値についても理解しやすい。しかし、生態系サービスはそれだけではない。
 
 供給サービスに勝るとも劣らず重要なのは「調整サービス」だ。例えば、森林という生態系では、樹々や森林土壌が雨水を貯留する機能を持っている。山が荒れていると鉄砲水が起きやすいという話を聞いたことはないだろうか?
 
 良い森林があれば、多少の雨が降っても簡単に鉄砲水が発生したり、下流で洪水が発生することはない。森林に降った雨は、樹々の葉や樹皮にとどまるだけでなく、地上にも落下する。
 
 良い状態の森林の土壌は歩くとふわふわした感じがするが、これは適度に空隙がある団粒構造があるからで、その空隙を通って雨水は土中深くに浸透し、また蓄えられる。そしてゆっくりと時間をかけて土の中でろ過されながら、流れていく。大量の雨水を貯めることができるので、大雨が降ってもどうということはないし、貯まった水は少しずつ流れ出すので、常にほぼ一定量の水が染み出すようになる。雨が降らない時期の渇水を防ぐことができるのだ。
 
 植生がないところに直接雨が降ると、激しく地面にぶつかった雨粒が地面を削り、そのまま地表を流れていく。水がそのまま流れるだけでなく、大切な表土まで洗い流されてしまうのだ。森林があっても状態が良くないと、土が固いため、雨水は地中深くまで染み込むことはなく、ちょっとした雨で も地表が洗われてしまう。植生がないのよりはましだが、やはり大雨の際には鉄砲水などが発生しやすくなってしまう。
 
 
タイの大洪水はなぜ起きたのか?
 
 このような機能は、まさに調整サービスと呼ばれるものだ。洪水を制御し、雨水などを浄化してくれる。2011 年、アユタヤを中心にタイ中央部で大洪水が起きたのはまだ記憶に新しいが、この洪水でタイ全体では約 4 兆円の経済被害があり、日本の損保会社の支払い総額は 9000 億円に上ったという。
 
 この洪水の直接の原因は気候変動によって降水量が多くなったこと、そして治水制御の失敗と言われる。しかし、30 年ほど前までは豊かな森林に覆われていたタイ北部の山地が、今はもうすっかりはげ山になってしまっていることも 大きく関係しているように思われる。なにしろ上流にあった森がほとんどすべてなくなってしまったのだ。もしこの森林 が健全なまま残されていたら、これほどひどい洪水は起きなかったのではないだろうか。
 
 森林の調整サービスが働くのは、こうした非常事態だけではない。暑い夏でも森の中に入るとひんやりすることは、誰もが経験したことがあるだろう。これは第一には樹々の葉が太陽光を遮るからだが、森の中は湿度が高いことも影響している。森の外に比べて温度変化が少なく安定しており、人間だけでなく、生きものにとって住みやすい環境になっている。森は微環境を安定させる働きがあるのだ。
 
 樹々の葉からの蒸散や森林に降った雨の蒸発で、森林の上空には雲が発達しやすい。そしてそれがまた森林に雨を降らす。つまり、森林のあるところでは、常に水が循環するのだ。蒸散や蒸発の際の気化熱は気温の上昇を防ぎ、湿度も比較的 高い状態に保たれる。森林が存在することによって、その周囲の気候が安定化するのだ。砂漠だから雨が降らないと私たちは考えるが、木を切り過ぎて丸裸にしてしまうと、実はそのことによって砂漠が生まれるのだ。
 
 他にも、モノカルチャーの畑ではしばしば大規模な病害虫の被害が発生するが、多様な生物種からなる生態系では疾病 が広がりにくいことが知られているし、豊かな生態系に隣接する畑では、蜂などの花粉媒介者が多いため、果物などの結実率が高くなることも知られている。
 
 いずれも具体的なモノを提供するわけではないので目には見えにくいが、よく考えてみればたしかに生態系は私たちに 様々なサービスを提供しており、そのサービスが使えなくなったとしたら、経済的にも大変な損失がある。見えないけれども大切、それが調整サービスだ。
 
 
(初出 2013年1月7日)

自然資本「超」入門